企業法務コラム
法人破産の解決事例
更新日:2022/08/10
Case1 製造業の法人破産
本件は、食品を製造、加工する会社の破産手続でした。比較的大きな工場機能を備えた建物を所有していたものの、建物そのものよりもその中に存在する製造機器の財産的価値が重要な案件でした。
これらの建物が仮に賃借物件であった場合には、原状回復義務を負うことから、工場から搬出に多大な費用を要する場合には、それらを任意に売却して破産財団からの支出をいかに減らすかが重要になります。
また、本件は食品製造加工業であり、工場に存在する食品在庫をいかに迅速に換価処分するかが重要でした。特に食品は時間の経過とともに劣化するばかりか、もはや商品価値すらなくなってしまうものまで存在するため、申立前の段階で処分することも検討しなければなりません。保存できる機器が存在していればよいようにも思えますが、同機器の運転に要する費用も日々支出となるため、保存費用に比して商品価値の方が高い場合に限り、商品を保存することが破産財団との関係では望ましい処理となります。
Case2 建設業の法人破産
建設業の破産手続において最も重要となるのは仕掛工事の対応であり、本件も同様でした。破産者が回収できる請負代金は確実に回収する必要がある反面、工事を着手して間もない場合には工事を続行する方がかえって支出が増えることの方が多く、その対応についての判断が非常に重要となります。特に、現場で実働する従業員に対する賃金は、日々支出を増やす要因となるため、どのタイミングで雇用契約を終了させるか否かも重要な判断となります。他方で、現場のことをよく知る従業員まで雇用契約を終了させてしまうと、後になって裁判所が選任する破産管財人が現場のことを正確に把握できない事態ともなることから、ご協力をいただける従業員の確保も必要です。
また、建設業の破産手続にあたっては、仕掛工事をしている工事現場から財産が逸出してしまうケースがあることから、現場の保全を図ることも重要となります。このような保全の方法や実働の在り方についても申立手続を代理する弁護士に任せるのが最もよいです。
Case3 福祉サービス業の法人破産
本件は福祉サービス業の破産手続でしたが、もっとも神経を使わなければならなかったのは、現に施設を利用されている入居者に対して与える事実上の影響をいかに最小限にするかという点でした。本件は同業他社のご協力をいただき、入居者を引き継いでくださったことにより、入居者への影響を可能な限り少なくすることができた案件でした。
このように、福祉サービス業の破産手続にあっては、破産財団の保全・増加という視点だけでなく、他の利害関係者に与える影響を可能な限り小さくする方法を模索することが事実上求められます。
Case4 小売業の法人破産
生花やその種苗を販売する小売業の破産手続でしたが、それらは食品と同様、時間の経過とともに劣化し、または商品価値を失わせることになりかねないため、それらの速やかな換価処分が求められます。
本件のような業種は法人としてではなく、自営業で引き続き行うことも考えられ、本件においても法人代表者が自営により引き続き事業を継続したいとのご希望をお持ちでした。しかし、そのように法人は破産手続を申し立てつつ、他方で従前法人が行ってきた事業を個人が引き継ぐことは難しい問題を含みます。というのも、法人が行ってきた事業を個人が引き続き行う場合には、個人が法人から事業を譲り受けているに等しいことから、その代金を破産財団に組み入れる必要があるためです。万一、個人事業として引き続き行いたい場合には破産財団に組み入れることのできるだけの一定のキャッシュの用意が必要です。
Case5 水産業の法人破産
魚介類の養殖をしていた会社の破産手続でした。同族経営であったことから、社員の大半が金融機関からの借入につき保証債務を負っており、その社員全員の破産手続も並行して行いました。
水産業の破産手続においては、実際に養殖している稚魚や成魚が金銭的価値を有することが多く、これらは破産財団に組み入れられ、配当の対象にされることが想定されます。しかしながら、本件においては、養殖活動がほとんど行われなくなってからの破産手続であったことから、これらの対応はほとんど問題になりませんでした。しかし、通常はこれらの財産的価値が非常に重要であり、申立手続にあたっては、いかにこれらの財産的価値を毀損させることなく保全するかが重要です。
もっとも、養殖業においては、例えば、生け簀単位で集合動産譲渡担保という担保権が設定されていることもあり、その場合には担保権者との交渉が必要になります。
監修者
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