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企業法務コラム

能力不足の問題社員に関する対処法について解説

投稿日:2022/09/06
更新日:2023/12/11
能力不足の問題社員に関する対処法について解説

第1 能力不足の社員について

使用者側から、「他の従業員と比較して明らかに作業効率が悪い」「業務の習得スピードが遅い」「中途採用の能力に達していない」等、従業員の能力不足についてのご相談をいただきます。

ところで、雇用契約は従業員の成果や出来高に着目して対価が支払われる契約ではなく、あくまで「労務・労働力の提供」に対して対価が支払われる契約ですので、能力不足により直ちに解雇等の手段による雇用契約の終了が認められるものではございません。そのことは、雇用契約が労働時間を基軸として賃金が支払われているものであることを考えれば分かりやすいかと思います。
もっとも、使用者側としては、能力不足の社員が存在することにより、通常以上の能力を有する従業員のモチベーション低下を招いたり、賃金の支払いについての不平等感を生んだりすることについて悩みを抱かれていることが多いのが現状です。

そこで、ここでは能力不足の問題社員に関する対処法について解説します。

第2 能力不足の従業員に関する対処法

(1) 使用者側が能力不足を理由として当該従業員との雇用契約を解消したいと考えることがままあります。しかしながら、使用者側が主導となって雇用契約を終了させようとする場合(すなわち、解雇や雇止めをしようとする場合)、そのハードルは極めて高く、裁判例としても、①能力不足の具体的な内容、②能力不足の程度、③能力不足の改善の有無、④配転の可能性等の諸要素を総合的に考慮して、厳格に解雇の有効性が判断されている傾向にあります。裏を返せば、この諸要素が能力不足の従業員に関する対処法を考えるうえで有用といえます。

  • ア 能力不足に対する指導

    裁判例が「能力不足の具体的な内容」や「能力不足の程度」を考慮要素としている背景には、使用者側として当該従業員の能力不足を補いまたは改善する術を講じているのかという疑問が前提として存在するものと考えられます。そのことは、「能力不足の改善の有無」が考慮要素として明示されていることからも明らかです。ここにいう能力不足の改善の有無というのは、従業員自らが能力不足を改善するための努力をしてきたかという意味も含まれていると考えられますが、より重要なのは使用者側がその能力不足改善のための努力を尽くしたのかという点です。

    すなわち、使用者側による従業員の能力不足の主張が正当化されるためには、使用者側としてその能力不足を補いまたは改善するための指導・努力を行ってきたにもかかわらず、能力不足の問題が解消されないということが必要になります。是正のために注意し改善を促したにもかかわらず、改善することがなく今後の改善の見込みもない場合にはじめて、雇用契約を終了させることができるかという問題の土俵に上がってきます。

  • イ 業務量・業務内容の調整、配転の実施

    能力不足に対する指導が仮に結果として実らない場合であっても、それゆえに雇用契約を終了させるのではなく、使用者側として当該従業員に妥当する業務内容や業務量を調整する方向性について検討することも求められます。従前の業務内容で「能力不足」が否めない場合には、その従業員の能力が最大限発揮できるような業務内容に切り替えることによる対応を一手段として検討すべきです。

    従業員の配置を変更し、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものを「配転」といいます。
    配転は人事権の一内容として使用者側に認められております。もっとも、その行使にあたっては、使用者の配転命令権の範囲内か否かが別途問題になります。判例上も、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるときや、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときは権利濫用にあたる、との判断枠組が示されています。

    また、当該従業員との間の労働契約において職種・業務内容が限定されていたり、勤務場所が限定されている場合には、配転の内容によっては当該従業員との個別の同意が必要になる場合もあります。ただし、労働契約の内容が特定の地位や職種に限定されている場合には、そもそも当該労働契約における配転は予定されていないといえます。そのため、当該従業員の能力の判断にあたっては、その限定されている地位ないし職種における能力を判断すれば足りるといえるでしょう。

    なお、配転に伴い賃金を下げる場合には賃下げについての同意がなければ、配転命令としては権利濫用により無効と判断されます。

(2) 以上のような諸事情が、能力不足による解雇の有効性判断において考慮事情とされることが端的に表れている裁判例をご紹介します。

Y社では全従業員を対象として年3回にわたり、人事考課が実施されていたところ、Y社の従業員であるXは当該人事考課において下位10パーセントに位置付けられていた。そのような中、Y社が、Xが就業規則上の「労働能力が劣り、向上の見込みがない」との普通解雇事由にあたるとしてXを解雇した事案です(東京地決平成11年10月15日)。

この裁判例においては、人事考課による相対評価の低さを、解雇事由としての「労働力が劣る」ことの根拠として認めてしまえば、毎年一定数の労働者が解雇の脅威にさらされることになり妥当でないとの見解が示されています。加えて、Y社としては、Xに対し、更に体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能力の向上を図る余地もあるべきとして、Y社による本件解雇が権利の濫用に該当し、無効と判断されています。
すなわち、能力不足による解雇については、能力を相対評価によって判断することにつき極めて厳格に判断しているだけでなく、使用者側による能力向上のための努力がない限り解雇が容易に認められないことを明らかにしております。

(3) なお、あらかじめ特定の能力や職責を前提として労働契約が締結されたと認められるような場合には、単なる能力不足の事案よりも解雇が認められやすい傾向にあります。それは、先に述べましたとおり、特定の職責を前提としている以上、そもそも配転が予定されておらず、配転の有無が解雇判断の有効性判断の考慮要素が外れてくる点や、賃金等の好条件に見合う高いレベルの能力ないし業績を期待されて採用されている点が根拠になっていると考えられます。特に、中途採用の従業員との関係でこのような考え方が妥当しやすいといえるでしょう。

第3 問題社員対応に関するご相談は弁護士法人グレイスへ

以上のとおり、解雇の有効性が問題になる事案の中でも能力不足の問題は、非常に厳しく判断されているのが現状です。しかしながら、実際の就労実態において、能力不足の問題は最も数が多く、かつ日々生じ得る問題のうちの1つといっても過言ではありません。そのような実態にある中で、直ちに解雇という選択肢に飛びつくのではなく、能力改善に向けた計画や、配転の可能性、それらが実らなかった場合に行う退職勧奨等、代替手段を考えていくことが非常に重要です。もっとも、それらの試みが不適切になされるとそれ自体が違法と判断されたり、別の労働問題(例えば、各種ハラスメント)に発展してしまったりするリスクもあります。

解雇に至る前におけるこれらの初動対応も含め、問題社員対応に関するご相談は是非弁護士法人グレイスまでお問い合わせください。

監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

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