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同一労働同一賃金とは使用者に何を求めているものか

同一労働同一賃金とは使用者に何を求めているものか

第1 同一労働同一賃金とは

1. 概要と目的

概要と目的

同一労働同一賃金とは、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者(以下「非正規雇用労働者」といいます。)と無期雇用フルタイム労働者(以下「正規雇用労働者」といいます。)との間の不合理な待遇差を設けることを禁止するものです。

このように正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇さの解消する規制がなされたのは、非正規雇用労働者が正規雇用労働者に比較して、賃金などの待遇も劣ることが一般的であるため、不合理な待遇差を解消することにより、どのような雇用形態を選択しても納得した待遇を得られ、多様な働き方を自由に選択できるようにするためです。そして、その結果として、非正規雇用労働者の労働力を引き出し、経済を活性化させることが最終的な目的といえます。

なお、「賃金」という言葉が使用されていますが、各種手当、福利厚生の有無も含め、およそ全ての労働待遇において問題となるものです。また、同一労働同一賃金は、無期雇用労働者と有期雇用労働者のように、雇用形態が異なる者の間での待遇格差を問題とするものであり、非正規雇用労働者同士の間、正規雇用労働者同士の間のように、雇用形態が同一の者との間での問題ではありません。

同一労働同一賃金に関する法律は、2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)から施行されています。そのため、中小企業においても同一労働同一賃金の実際の運用に備えて準備を始めなければなりません。

2. 具体的な内容

具体的な内容

前述のとおり、同一労働同一賃金の規制により、同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇が禁止されることになります。そして、不合理かどうかは、個々の待遇ごとにその性質や目的等に照らして判断されます。具体的には、①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差が禁止されています。このような取り扱いを均衡待遇といいます。

また、職務内容、職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合にも、正規雇用労働者と非正規雇用労働者とで差別的取り扱いが禁止されており、このような取り扱いを均等待遇といいます。

さらに、派遣労働者については、①派遣先の労働者との均衡・均等待遇、②一定 の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等)を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することが求められています。

3. 問題となった事例

問題となった事例

後にもご紹介するように同一労働同一賃金に関して問題となったものとして平成30年6月1日に出た最高裁判例(いわゆるハマキョウレックス事件)が存在します。この裁判例では、自動車運送業を営む会社において、正社員に対して支給されていた各種手当が契約社員には支給されていなかったことが問題となっています。そして、契約社員がその待遇格差を問題視して、会社に対してその差額の支払いを求めています。最終的に、通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当及び皆勤手当の各手当について、契約社員に支給されていないのは不合理であると判断されました。そのほかにも令和2年10月に最高裁判例が複数出ています。これについても以下で改めて紹介いたします。

また、同一労働同一賃金は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の待遇格差の問題ですので、自己と他者との比較の問題だけでなく、正規雇用労働者であった自己の待遇との差も問題となりえます。例えば、定年まで無期雇用労働者として働いていた者が、定年後は有期雇用労働者として再雇用されたものの、定年までの間の待遇と異なるに至った場合に、その待遇差が不合理であると争う場合もあります。

4. 厚生労働省によるガイドラインの存在

厚生労働省によるガイドラインの存在

同一労働同一賃金については、厚生労働省がガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)を定めています。ガイドラインでは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかが示されています。また、同一労働同一賃金が問題となる典型的な事例についても問題とならない例・問題となる例という形で具体例が示されています。

同一労働同一賃金については、最高裁判例が出てきてはいるものの、まだまだ裁判例も少ないことから、待遇が不合理であるかの判断に当たって重要な役割を果たすものといえます。

第2 同一労働同一賃金に関連した主たる法律の改正

1. 労働契約法及びパートタイム労働法の改正

(1)規定の統一

2018年6月29日に成立した働き方改革関連法案により同一労働同一賃金について、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「旧パートタイム労働法」といいます。)が改正され、同法により正規雇用労働者と非正規雇用労働者との不合理な待遇の相違について統一的に判断されることとなりました。

旧パートタイム労働法において、通常の労働者と比較して不合理な待遇の相違を設けることを禁止する規定及び通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者との間の差別的取扱いの禁止の規定が存在していました。もっとも、同法は、名前のとおりパートタイム労働者を対象とした法律であるため、非正規雇用労働者全てに適用されるものではありませんでした。

また、労働契約法において、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、(中略)不合理と認められるものであってはならない。」と定められていました。

このように非正規雇用労働者については、旧パートタイム労働法と労働契約法それぞれに規定が存在しました。そこで、今回の改正により、旧パートタイム労働法が短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期法」といいます)と名称も変更され、パートタイム労働者と有期雇用労働者との待遇差の是正について、パート・有期法第8条及び第9条の規定に統一されました。その結果、これまでの労働契約法第20条の内容は吸収され削除されています。

(2)その他の改正内容

さらに、パート・有期法においては、パート・有期法第8条に定める均衡待遇の実効性を確保するために、非正規雇用労働者は、使用者に対して、正規雇用社員との待遇差について説明を求めることができると定めています。そのため、使用者には今後、待遇差について明確に説明できるような運用が求められてきます。

加えて、同条に違反した場合の行政による助言・指導等の根拠となる規定並びに「均衡待遇」及び「待遇差の内容・理由に関する説明」について行政の裁判外紛争解決手続き(ADR)が利用できることとなりました。

2. 労働者派遣法について

派遣労働者は、派遣先で就業することから派遣先の労働者との待遇差が問題となります。ただし、派遣労働者は、派遣先企業が変わることから、その度に賃金水準も変更となると派遣労働者の所得が不安定になることが予想されます。また、改正前の派遣法には、均衡への配慮を求める規定は存在したものの、労働契約法や旧パートタイム労働法のように、不合理な待遇差を禁止する規定などは存在しませんでした。

そこで、今回の改正により、パート・有期法と同様に、①派遣先の労働者との均衡・均等待遇又は②一定の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等)を満たす労使協定による待遇のいずれかの方法により、派遣労働者の待遇を確保することか派遣元企業に求められることとなりました。さらに、正当な理由なく派遣先の通常の労働者よりも不利な待遇をすることを禁止する規定も新設されています。

そして、改正派遣労働法についても、派遣労働者は、派遣元に対して、雇い入れ時及び派遣時に自身の待遇に関する説明を求めることができると定めています。

さらに、派遣労働者と派遣元又は派遣先とのトラブルについても行政の裁判外紛争解決手続き(ADR)が整備されることとなりました。

第3 日本と海外との同一労働同一賃金に対する考え方

1. 同一労働同一賃金のパート・有期法に向けた議論の過程

1 同一労働同一賃金のパート・有期法に向けた議論の過程では、「日本型同一労働同一賃金」とのキーワードが用いられてきました。経団連が2016年に公表した「同一労働同一賃金の実現に向けて」との提言書でも、日本の雇用慣行に留意した日本型同一労働同一賃金を目指していくとして、海外の雇用慣行や人事賃金制度と対比した提言がされています。

このように同一労働同一賃金導入の過程で「日本型」であることが強調された背景には、「同一労働同一賃金」の考えがドイツやフランスなどのEU諸国等で普及してきたものであるということがあります。

2. 欧州における同一労働同一賃金の歴史

ヨーロッパにおいて同一労働同一賃金の考え方の歴史は古く、1919年のヴェルサイユ条約まで遡ると言われます。同条約では「同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受くべき原則」(第13編第2款第427条)と定められました。1951年にはILO100号条約において「同一価値の労働に対して男女労働者に同一の報酬に関する条約」が採択されました。1958年にはILO111号条約「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」が採択されています。

現在では、EU対象国では、EU指令(1997 年EUパートタイム労働指令、 1999 年EU有期労働指令、2008 年EU派遣労働指令)によって雇用形態における「均等待遇原則」がつくられ、賃金を含むあらゆる労働条件について、雇用形態を理由とする不利益取扱いが禁止されています。

3 . 「日本型同一労働同一賃金」提唱の背景

同一労働同一賃金の制度を日本でそのまま適用することはできませんでした。それは日本とヨーロッパでは賃金制度、雇用慣行、法制度が大きく異なるためです。

日本は企業内労使関係が基本であり、企業によって賃金制度の内容が異なります。これに対して、ヨーロッパでは産業別労使関係が基本です。職種・技能グレードに応じた賃金率が決定され、その賃金率が正規雇用労働者・非正規雇用労働者を問わずに適用されます。

また、日本では新卒一括採用が主流であり、数年ごとに部署や職種が変わる人事ローテーションによりキャリアアップがなされます。これに対し、ヨーロッパではポストが空いた時に経験者・有資格者を採用し、職務限定契約が締結されることが一般的です。キャリアルートも特定職務に限定されています。

以上のような差異があったため、ヨーロッパ型の同一労働同一賃金をそのまま導入することができず、日本の経済社会基盤に適合した制度を構築する必要がありました。

4. 「日本型同一労働同一賃金」の考え方

上記で述べたように、日本では労働条件が企業ごとに定められます。そのため、同一労働同一賃金の考え方も、雇用形態による格差を解消するという視点で定められました。これは日本において正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金格差が大きく、それが社会問題となったことが背景にあります。

日本とヨーロッパの同一労働同一賃金は規制内容こそ類似していますが、その歴史・成立の経緯や全く異なります。同一労働同一賃金を導入するに際し、このような背景も踏まえて、参考にしていただければ幸いです。

第4 対応できなかった場合に生じる不利益

同一労働同一賃金に違反した場合の罰則について、明確に定められた規定は存在しません。したがって、企業が同一労働同一賃金の違反を理由に具体的なペナルティを受けることはありません。

ただし、不合理な待遇格差があった場合、労働者から損害賠償請求を受ける可能性はあります。法改正に先立って同一労働同一賃金に関する最高裁判例が出されており、同一労働同一賃金に違反した場合にどのような不利益を受けるかについて参考になります。

1. ハマキョウレックス事件(最二小判平成30年6月1日)

同事件は、正社員と有期契約労働者の待遇格差が労働契約法20条に違反するとして争われたものです。

原告は、「一時金、退職金、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当」につき不合理な相違であると主張しました。

最高裁は、労働契約法20条の趣旨を「有期契約労働者については、無期労働契約を締結している労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したもの」であると判示しました。そのうえで、支給されている各手当の趣旨を検討し、正社員と有期契約社員の格差に合理性があるか否かを検討しました。

最高裁は、原告が主張した各手当のうち「無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当」につき、不支給を不合理と認め、差額相当額の損害を認定しました。

一方で、住宅手当については労働契約法20条に違反しないとされました。住宅手当の不支給が許容されたのは、正社員は転居に伴う配転が予定されており、多額の支出が伴う可能性がある一方で有期契約社員については就業場所の変更が予定されていないという相違があったからです。

2. 長澤運輸事件(最二小判平成30年6月1日)

同事件は、高年齢者雇用安定法による再雇用を受けて定年後も就業を継続していたトラック運転手が、定年前の正社員としての給与額と定年後再雇用の給与額に相違があったため、会社に対し、正社員と同等の賃金を請求したというものです。

最高裁は、「有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる」と判示しました。そのうえで、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとしました。

本判決では、精勤手当と時間外手当につき、不支給を不合理と認め、差額相当額の損害が認定されています。

以上のように、同一労働同一賃金に違反した場合、企業には賠償責任を負うというリスクがあります。

もっとも、企業の受ける不利益は賠償責任だけにとどまりません。同一労働同一賃金は社会的関心事の高い改正ですので、これに違反した場合、不合理な待遇格差を設けているとの風評が立ったり、既存社員の士気に悪影響を及ぼしたりするおそれがあります。また、そうした風評が新規社員を募集する際にも影響し、人材採用に支障が生じることも懸念されます。

罰則がないからといって軽視することはせず、法に沿って制度の見直しを行うことをお勧めします。

第5 同一労働同一賃金に関する2020年に出された最高裁判例

1. はじめに

令和2年10月に、同一労働同一賃金に関する判例が相次いで出されました。そこで、各判例で問題となった事案及び判旨の概要をご紹介いたします。

これらの判例を検討するにあたって注意すべきなのは、いずれも事例判断であり、例えば退職金や賞与の待遇格差は適法、夏期休暇や年末年始勤務手当の付与に関する待遇格差は違法、という結論だけ捉えても問題の解決にならないということです。判例はいずれも法律において規定されている種々の要素を1つずつ当該事案にあてはめたうえで、当該事案における運用として適法か否かを判断しているという点を意識する必要があります。

そして、法律は、比較の対象となる労働者の、①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、の3つの要素が挙げております。

そこで、今回は、それぞれの判例の事案の概要と結論をご紹介するとともに、判例が上記3つの要素を検討するにあたり、当該事案のどのような実態を捉えているのかに焦点を当ててまとめます。

2. 大阪医科大学事件

(1)事案の概要

ア 比較の対象となった雇用形態

① 期間の定めのない労働契約を締結している正職員

② 契約期間を当初2ヶ月、その後1年とする契約を複数回更新していたアルバイト職員

イ 対象となった労働条件

① 賞与

正職員に支給し、アルバイト職員には支給しない。

② 私傷病による欠勤中の賃金

正職員に給料(6ヶ月分)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給するのに対し、アルバイト職員には支給しない

(2)判旨結論

賞与や私傷病による欠勤中の賃金の支給についての相違は、いずれも不合理ではない。

(3)判旨理由(賞与に関する部分)

ア 「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」について

『(アルバイト職員)の業務は、その具体的な内容や、(アルバイト職員)が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると、相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、これに加えて、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない』

イ 「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」について

『…教室事務員である正職員については、正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については、原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かる個別的な事情により行われていたものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できない』

ウ 「その他の事情」について

『…アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた』

3. メトロコマース事件

(1)事案の概要

ア 対象となった雇用形態

① 駅構内の売店における販売業務に従事している、無期労働契約を締結している労働者

② 駅構内の売店における販売業務に従事しており、期間の定めのある労働契約を締結していた労働者

イ 対象となった労働条件

退職金

(2)判旨結論

退職金の支給の有無につき、その相違は不合理とはいえない。

(3)判旨概要

ア 「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」について

『…正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があった』

イ 「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」について

『…売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等は命ぜられることはなかったものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があった』

ウ 「その他の事情」について

『…(使用者側は、)契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については、…労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮するのが相当である』

4. 日本郵便事件

(1)事案の概要

ア 対象となった雇用形態

① 無期労働契約を締結する正社員

② 有期労働契約を締結する期間雇用社員、時給制契約社員、月給制契約社員

イ 対象となった労働条件

① 夏期休暇及び冬期休暇の付与

② 年末年始勤務手当、年始期間の勤務に対する祝日給及び扶養手当の支給

③ 私傷病による病気休暇として付与する有給休暇の有無

(2)判旨結論

上記①ないし③いずれもその相違は不合理と認められる。

5. 最後に

ここで判旨を取り上げたのは、あくまで法律上規定されている3つの要素(①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情)を検討している箇所に限定いたしました。

同箇所を読み解くだけでも、どのような事情が合理性を肯定しうる根拠となるものなのかを知ることができます。

使用者側としましては、ただ単に就業規則を眺めてそれに変更するだけでは足りず、上記3つの要素に差異を設けることで、雇用形態の差異に基づく労働待遇の違いに合理的な説明ができるようにしておくことが極めて重要といえるでしょう。

第6 同一労働同一賃金のメリット、デメリット

1. はじめに

2018年6月29日に成立した働き方改革関連法によっていわゆる「同一労働同一賃金」が導入されたことは皆様もお聞きになられたことがあるかと思います。すなわち、パート・有期法はいわゆる「同一労働同一賃金」として、同じ会社で働いている正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を禁止しました。

大企業では既に、2020年4月1日から、同一労働同一賃金が適用されていますが、中小企業では、2021年4月1日から適用されることになっています。なお、派遣労働者については、2020年4月1日に既に企業規模を問わず一律に労働者派遣法に基づく「同一労働同一賃金」の適用が開始されています。

では、「同一労働同一賃金」が導入されることによるメリットとデメリットはどんなものが考えられるでしょうか。

2. 同一労働同一賃金のメリット・デメリット

(1)メリット

ア 非正規雇用労働者の待遇が上昇する

非正規雇用労働者の賃金、福利厚生、教育訓練等の待遇は、正規雇用労働者と比して低く抑えられてきました。パート・有期法によって、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差が禁止されたことによって、仕事や能力などの実態にあった待遇への上昇が期待されています。それによって、非正規雇用労働者が仕事や能力等の実態に比して待遇が低すぎる、正当に処遇がされていない、と思うことで意欲をなくすという問題を改善し、非正規雇用労働者のパフォーマンスを改善していくことも期待されています。

イ キャリアの多様性がもたらされる

今までの日本では、終身雇用の下、正規雇用労働者になれた労働者は安定した雇用を享受し、他方で、非正規雇用労働者は不安定な雇用を余儀なくされていました。その結果、自分に仕事が合わなくても我慢して働き続ける人や、不本意な給料で働かなければならない労働者が生じていました。

「同一労働同一賃金」が施行され、雇用形態や勤続年数によってではなく、スキルや経験、成果によって賃金が決まるようになれば多様で柔軟な働き方を選択することが可能になります。

(2)デメリット

ア 正規雇用労働者の賃金が下がる可能性がある。

賃金原資には限りがあるとの想定の下、合理的な理由のない差別をしないように正規雇用労働者の賃金を下げて非正規雇用労働者との差をなくしてしまう、という対応をしようとする企業が現れるおそれがあります。この場合、賃金の不利益変更の問題が別途生じることになりますが、非正規雇用労働者の賃金を上げる、という方向の効果は生じないことになります。

イ 新規雇用が減る可能性がある。

非正規雇用労働者の賃金を上げた場合、人件費が高騰することになることから、企業が新規雇用を控えるおそれがあります。今まで、企業は雇用の調整弁として非正規雇用労働者を使用してきましたが、今後は、より計画的な人材採用計画を立てることが重要になってきます。

ウ 待遇差についての説明が必要になる。

同一労働同一賃金の施工後に正規雇用労働者と非正規雇用労働者に待遇差が生じている場合、非正規雇用労働者は、会社に対し、正規雇用労働者との待遇の相違の内容及び理由並びに待遇決定に当たって考慮した事項についての説明を求めることができるようになります。説明要求があった場合、企業は非正規社員に対しての説明責任が生じることになります。

説明時期について法律上の定めはありませんが、長期間非正規雇用労働者の説明要求を放置すると説明義務違反とされるリスクがありますので、回答時期をどの時期にするかは目処を立てておくことが必要です。

第7 同一労働同一賃金施工後の対応手順

同一労働同一賃金についての問題点の洗い出しとそれに対する対応策は、概ね以下の手順によって行うこととなります。

【手順1】 自社の採用する雇用形態を確認する。

同一労働同一賃金とは、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。言い換えれば、正規社員同士の間、非正規社員同士の間のように、雇用形態が同一の者との間での問題ではありません。

従って、自社が雇用形態の異なる従業員を複数抱えているかという確認が必須です。また、同一労働同一賃金は、自己と他者との比較の問題だけでなく、正規雇用労働者であった過去の自分と非正規雇用労働者である現在の自分との比較の問題ともなり得る点に注意を要します。

【手順2】 自社の採用する雇用待遇の違いを確認する。

次に、自社の採用する雇用形態の差異によって、雇用待遇が異なるか否かを確認します。ここにいう雇用待遇とは、各種手当、福利厚生の有無も含め、およそ全ての労働待遇において問題となるものです。同一労働同一「賃金」という表現から誤解してしまわぬよう注意が必要です。

問題となり得る主な雇用待遇の例を挙げると、各種手当(残業手当、通勤手当、皆勤手当、住宅手当、扶養手当等)や賞与、退職金などがあります。雇用形態の相違により、これらの雇用待遇について扱いが異なっている場合には、まさに同一労働同一賃金の原則に反するか否かの問題を検証しなければなりません。

【手順3】 雇用待遇の違いが合理性を有するか否か検討する。

雇用形態の違いによって、待遇面において差異が設けられている場合には、その雇用形態の違いが手当の有無に影響を与えることを合理的に説明し得るのか否かという検証が非常になります。

例えば、次のような事例を考えてみます。ある会社が、ドライバー業務を行う従業員のうち、正社員に対しては無事故手当として1か月間無事故で勤務したときに1万円を支給しているが、契約社員に対してはこの手当を支給していないとします。この場合、無事故手当を正社員には支給し、契約社員には支給しないという待遇差が不合理といえるかが問題となりますが、両社員の違いは、契約期間の定めがあるか否かの違いに過ぎず、等しくドライバーという業務を遂行している点で異なるものではないことを考えると、無事故手当の支給に差異を設けることに合理性はないと考えられます。

それでは、次のような事例はどうでしょうか。ある会社が正社員に対しては住宅手当を支給し、契約社員に対しては支給していないとします。もっとも、この会社においては、正社員については転居を伴う配転が予定されているのに対し、契約社員については就業場所の変更が一切予定されていないという事情があれば、正社員は契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得ることから、住宅手当に差異を設けることはその差異の程度にもよりますが合理的な扱いであると考えられます。

このように、住宅であれば適法、通勤手当であれば違法と一刀両断できるものではない点に同一労働同一賃金をめぐる問題の難しさがあります。その雇用待遇を採用している会社の種々の事情から、その差異が合理的なものであると説明がつくのか否かを検証することが非常に重要です。

【手順4】 不合理な待遇格差を是正する。

以上の内容を前提とすると、同一労働同一賃金の原則に違反しないよう対応する方法としては論理的にいって次の2つに大別できます。

(1)待遇格差そのものをなくす方法

同一労働同一賃金の問題を最も端的に是正する方法です。もっとも、必ずしも容易な方法ではない方法でもあります。

待遇格差そのものをなくすには、①これまで支給していた手当をなくすか、②これまで支給していなかった雇用形態の従業員にも同じ手当を支給するか、のいずれかとなります。

このうち上記①の方法は、これまで支給されていた従業員にとって不利益な変更となります。そのため、使用者側は、過半数従業員代表や労働組合との協議により、その不利益変更に対する従業員の承諾を求めることが必要となります。仮に変更の目的が「同一労働同一賃金に適合させるため」であったとしても、不利益変更であることに変わりはないことに配慮しなければなりません。他の手当で調整を図る、あるいは、徐々に変更をしていく経過措置を設ける等の工夫は、その対応策の1つであるといえます。

他方、上記②の方法であれば、これまで支給してこなかった従業員に対して新たに支給するものですので、従業員にとっては労働条件の向上となります。しかしながら、その該当者が多数に上る場合には、使用者側にとって大きな経済的負担となるというデメリットがあります。

(2)待遇格差に合理性が認められるような制度設計とする方法

待遇格差はそのまま維持した上で、その差異が合理的なものとなるような制度設計にする方法です。

ここで参考になるのは、上記【手順3】で取り上げた事例です。すなわち、この事例では、住宅手当の支給不支給という待遇格差が、就業場所の変更を予定している雇用形態と、就業場所の変更がない雇用形態の違いに基づくものであると合理的に説明しうる点で同一労働同一賃金に反しないといえます。

このように既存の制度設計を見直す方法、あるいは、雇用形態によって業務の内容やそこに伴う責任の程度を異なるものにする方法が考えられます。全てを「同一賃金」にするよう求められているものではなく、「同一労働」に対して「同一賃金」を求められている点に着目した対応方法といえます。

もっとも、何が合理的で、何が不合理であるかの判断は非常に難しく、これが同一労働同一賃金をめぐる問題を難しくしているといえます。明確な基準が存在する訳ではなく、解釈に依らざるを得ないためです。そのため、いずれの待遇格差の是正方法を検討される場合にも、専門家の意見を聴くことをお勧めします。

第8 同一労働同一賃金の導入事例

会社の業種:

小売サービス業

従業員の構成:

正社員/本社管理業務・店舗業務

定年後再雇用/本社管理業務・店舗業務

パート/店舗業務

勤務の実態:

本社・各店舗の管理業務は、正社員のうち勤続年数が長い者が務めている。正社員のうち勤続年数が短い者は、店舗での接客等の業務に従事することもあるが、永続的なものではない。

定年後再雇用者の多くは、会社の人員不足により、再雇用後も、従前と同様の職責に就いているため、管理業務に従事している者が一定数いる。

パートは、店舗での接客等の業務に従事しており、管理業務には関与していない。

課題:

定年後再雇用者は、実質的に、正社員と同様の職責に従事しているものが多いにもかかわらず、正社員との待遇格差があった。

パートは、正社員と職責が異なっているものの、優秀なパートを正社員に登用するための社内制度が活用されていなかった。また、人事考課制度が統一されておらず、店舗ごとの差異があった。

対応:

1.基本給

定年後再雇用者は、定年前の等級を維持する。そして、パートは、職種別の時給/日給の表を作成して、全社で統一的・客観的な運用を行うことが考えられます。

2.昇給

定年後再雇用者は、昇給を行わず、パートは、上記1の表に基づく定期的な人事考課に基づく昇給を行うことが考えられます。

3.賞与

賞与は、正社員に対する功労報償・長期的な就業意欲の向上という側面があります。

そのため、定年後再雇用者/パートへの賞与は、現時点では支給せず、今後の裁判例/他社事例を踏まえて、判断することが考えられます。

4.退職金

退職金は、正社員に対する功労報償という側面があります。

そのため、パートへの退職金は、現時点では支給せず、今後の裁判例/他社事例を踏まえて、判断することが考えられます。

また、定年後再雇用者は、定年時に退職金の支給を受けているため、再度の支給は行わないという対応が考えられます。

5.割増賃金(時間外手当・深夜手当・休日手当)

一律に、法律の基準どおりの手当を支給する必要があります。

6.役職手当・職務手当

定年後再雇用者のうち、定年前と同様の職責に就いている者には、正社員と同様の役職手当を支給することが考えられます。

また、パートは、職責の違いにより管理業務に従事しないため、役職手当は支給せず、他方で、勤続年数が長く、勤務している店舗において重要な立場になっている者がいることに鑑みて、パート向けに職務手当を新設して、就労意欲の向上を目指すことが考えられます。

7.家族手当・通勤手当

一律に、正社員と同様の手当を支給することが考えられます。

そして、家族手当は、一律に一定額の支給をするのではなく、扶養する家族の構成/人数に応じた支給額を定める必要があります。通勤手当は、一律に一定額の支給をするのではなく、通勤ルート/使用する交通手段に応じた支給を行うことが考えられます。

8.慶弔見舞金

一律に、正社員と同様の見舞金を支給することが考えられます。

9.その他

パートのうち、勤続年数が長く、勤務している店舗において重要な立場になっている者について、正社員への登用制度を新設することが考えられます。

第9 同一労働同一賃金対応に向けた当法人のサポートについて

1. 法改正についてのご相談

以上のとおり、同一労働同一賃金の対応には、現状の問題点の洗い出しを行い、それをもとに対応策を検討することになります。しかしながら、同一労働同一賃金の問題は、法的評価も伴うものであり、単に有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件を比較するだけでは解決しません。そのため、まずは現状の労働条件についてご相談いただければと思います。その上で、弁護士が問題点の洗い出しを行い、その改善方法をご提案いたします。その他にも、当事務所では、ニュースレターやメールマガジンなどを通じて労務に関する法改正情報も発信しています。

2. 顧問弁護士のメリット

同一労働同一賃金の問題だけでなく、労務問題は予防及び初動対応が重要です。そのため、常に連絡が取れる弁護士の存在が紛争防止及び鎮静化の観点からも重要となります。また、同一労働同一賃金の問題は、一度相談して解決するものではなく、日々の経営の中での検証と改善が必須となります。そのため、会社の実情を把握し、かつ、継続的にサポートを受けられる顧問弁護士に相談をすることにより、適切な対応が可能となります。

3.サポート内容

当事務所では、同一労働同一賃金への対応にあたり、以下のサポートを行なっています。

(ア) 就業規則の整備、雇用契約書の作成または賃金制度の改訂支援

同一労働同一賃金への対応にあたっては、就業規則の確認及び改訂が必要となります。場合によっては、有期雇用労働者用の就業規則等の作成も必要となってきます。当事務所では、弁護士ならではの視点で就業規則等の作成支援も行なっております。その他にも、既存の雇用契約書の作成及び修正並びに賃金制度についても助言等を行なっています。

(イ) 未払い賃金、損害賠償請求の事前予防

未払賃金の問題は、時効期間の変更もあり企業にとっては避けては通れない問題です。未払賃金請求の事前に防ぐための労務管理などについても弁護士の視点からアドバイスいたします。その他、同一労働同一賃金に違反するという場合には、従業員から金銭的な請求を受けることになります。そのため、このような請求を受けないための対応策等についても、ご相談いただけます。

以上

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