企業法務コラム
退職者による顧客情報の持ち出しは犯罪?不正競争防止法と損害賠償請求の可能性について弁護士が解説
更新日:2026/03/13
退職した従業員が顧客情報を勝手にもち出し、競合他社で利用していることが発覚したとき、経営者として受ける衝撃は計り知れません。「信頼していたのに」と、強い憤りを感じるのも無理はないでしょう。
貴社でも、以下のようなお悩みを抱えていないでしょうか。
- 元社員が顧客リストを勝手にもち出して独立した
- 転職先から自社の既存顧客へ営業メールが届いている
- 情報をもち出した元社員に損害賠償を請求したい
- 不正競争防止法などの法律で、相手を処罰できるのか知りたい
結論からいうと、顧客情報のもち出しは「不正競争防止法」違反として、民事・刑事の両面で責任を追及できる可能性があります。会社が情報を適切に管理していれば、情報の使用差し止めや損害賠償請求が認められるためです。
ただし、法的な責任を問うためには、もち出された情報が「営業秘密」として認められる条件をクリアしなければなりません。
この記事では、顧客情報の管理や犯罪になる条件、会社が取るべき具体的な対応策を弁護士が詳しく解説します。
- この記事でわかること
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- 不正競争防止法における「営業秘密」の3要件
- 損害賠償請求や差し止め請求を行うための実務フロー
- 有効な証拠を確保するための具体的なステップ
- もち出しを未然に防ぐための社内体制の構築方法
この記事でわかること
退職者による顧客情報の持ち出しは、不正競争防止法違反となり得ます。民事上の損害賠償請求や差し止め、さらには刑事罰の対象となる重大な行為です。法的責任を追及するには、該当の情報が「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たす営業秘密である必要があります。特に会社側の管理実態が厳しく問われるため、事前の社内体制整備と、発覚直後の迅速な証拠保全が解決の鍵を握ります。泣き寝入りせず、専門的な法務対策を講じることで大切な資産を守りましょう。トラブルの早期解決と再発防止に向けて、弁護士法人グレイスへご相談ください。初回相談は無料です。
目次
退職者による顧客情報の持ち出しが発覚した際の法的リスクと結論
従業員が退職する際、会社の大切な資産である顧客情報を無断でもち出す行為は、企業にとって致命的なダメージを与えかねません。結論からいうと、このような行為は法的に厳しく制限されており、会社側は法的手段を講じることができます。
顧客情報の持ち出しは「不正競争防止法」違反になり得る
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するための法律です。この法律では、企業の「営業秘密」を不正に取得、使用、開示する行為を禁止しています。退職者が顧客リストをUSBメモリにコピーしてもち出したり、私的なクラウドストレージに保存したりする行為は、この「不正の手段による取得」や「不正な使用」に該当する可能性が高いといえます。
民事責任(損害賠償)と刑事責任(罰則)の両面がある
民事面では、情報の使用差し止めや、流出によって生じた利益損失に対する損害賠償請求が可能です。
情報のもち出しが発覚した場合、元従業員は民事上の責任だけでなく、刑事上の責任を問われることもあります。
刑事面では、「不正の利益を得る目的」・「営業秘密保有者に損害を加える目的」がある場合には、不正競争防止法違反として、10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります(同法21条1項各号)。
会社側が「勝てる」かどうかは情報の管理実態に左右される
ただし、すべての顧客情報が法律で守られるわけではありません。裁判で会社側の主張が認められるためには、もち出された顧客情報が法律上の「営業秘密」としての要件を満たしている必要があります。特に、会社がその情報をどれだけ厳重に管理していたかという「秘密管理性」が最大の争点となります。
不正競争防止法における「営業秘密」とは?持ち出しが犯罪になる3つの要件
不正競争防止法第2条第6項では、「営業秘密」を以下のように定義しています。
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
この定義から、営業秘密として認められるためには「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3つの要件をすべて満たさなければなりません。
要件1:秘密管理性(秘密として厳重に管理されているか)
これが最も重要かつ、裁判で否定されやすい要件です。単に「心の中で秘密だと思っていた」だけでは足りず、従業員から見て「これは秘密情報なのだ」と客観的にわかる状態で管理されている必要があります。
アクセス権限の設定やパスワード保護の有無
具体的には、例えば、特定の部署の人間しかアクセスできないフォルダに格納されているか、個別のIDやパスワードで保護されている等がチェックされます。誰でも自由に閲覧・コピーできる状態だった場合、秘密管理性は否定される可能性が高まります。
「部外秘」などの表示による識別
物理的な書類であれば「親展」「部外秘」といったスタンプがあるか、電子データであればファイル名やヘッダーに「秘密」である旨が明記されているかも重要な判断材料です。
秘密管理性は、アクセス制限などの技術的管理だけで判断されるものではありません。
社内規程の整備、秘密表示、従業員への教育・周知などにより、従業員が「この情報は秘密である」と認識できる状態にあったかという点を含め、管理体制全体を踏まえて総合的に判断されます。
要件2:有用性(事業活動に役立つ価値ある情報か)
その情報が、会社にとって経済的な価値をもっている必要があります。顧客リストは、それ自体が営業活動の効率化や売上増大に直結するため、基本的には有用性が認められやすい情報です。
要件3:非公知性(一般に知られていない情報か)
その情報が、刊行物に掲載されていたり、インターネット上で誰でも入手できたりする状態ではないことをいいます。例えば、自社のWebサイトで公開している取引先一覧などは、非公知性がないため営業秘密にはあたりません。
顧客名簿が「営業秘密」と認められない典型的なケース
以下のような状況では、たとえ重要な顧客リストであっても法律の保護を受けられないリスクがあります。
- ● パソコンにパスワードをかけておらず、全社員が共有アカウントを使っていた。
- ● 顧客名簿を印刷して誰でも持ち出せる場所に放置していた。
- ● 就業規則に「情報の持ち出し禁止」の規定がなく、研修も行っていなかった。
- ● 担当者が個人的にもっている連絡先を、会社が把握・管理していなかった。
保護対象は秘密管理性・有用性・非公知性の3要件が共通でも、民事と刑事では立証のハードルの高さが異なります。
実務上は、まず仮処分で迅速に流出を止める(民事)ことが優先され、証拠が揃った段階で刑事告訴を検討する(刑事)など、両者を並行して活用するアプローチが一般的です。
顧客情報は個人情報保護法上の観点からも検討
顧客情報には個人情報が含まれる場合が多いため、当該情報の持ち出しや利用は、営業秘密・機密情報の問題に加えて、個人情報保護法上の適正取得、安全管理措置、漏えい・名簿流通リスクの観点からも注意が必要です。
さらに、社内調査やモニタリングを行う場合には、会社の管理下にある端末・アカウント・システムを対象として適法な範囲で実施し、調査であったとしても無断ログインや不正アクセスに当たる行為は避ける必要があります。
顧客情報の持ち出しに対して会社が取れる4つの法的手段
不正が発覚したとき、会社は泣き寝入りする必要はありません。法律に基づき、以下の4つのアクションを検討しましょう。
1. 情報の使用・開示を止める「差止請求」
元従業員やその転職先が、もち出した情報を使って営業活動を行うことを止めさせる手続きです。損害が拡大する前に、裁判所を通じて「仮処分」を申し立てることが一般的です。
2. 被った損失を補填させる「損害賠償請求」
情報のもち出しによって顧客を奪われ、売上が減少した場合、その損失額を請求します。不正競争防止法には、損害額の計算を容易にするための規定(第5条)があり、これを利用して立証負担を軽減できます。
3. 社会的信用を回復するための「信用回復措置請求」
営業秘密の持ち出しに関連して、「不正取得情報に基づく虚偽の営業活動で被害企業の信用が毀損されたケース」があります。このような場合には、謝罪広告の掲載などを求めることができます。ただし、実務上は損害賠償の中で解決されることが多いです。
4. 警察への告訴を視野に入れた「刑事告訴」
極めて悪質なケースでは、警察に被害届や告訴状を提出します。刑事罰が科されることで、本人への強い制裁となるとともに、他社員への強力な抑止力になります。
損害賠償請求の現実的なフローと認められる賠償額の相場
裁判を行う場合、具体的なプロセスと「いくら取れるのか」という見通しが重要です。
元従業員本人だけでなく「転職先企業」への請求も可能か?
転職先の企業が、もち出された情報であることを知りながら(または重大な過失によって知らずに)その情報を受け取り、利用している場合、転職先企業に対しても共同不法行為として損害賠償請求が可能です。会社対会社の話になるため、解決金が高額になるケースもあります。
損害額の立証はどうする?不正競争防止法による「推定規定」活用
通常、不法行為による損害賠償では、被害を受けた側が「いくら損をしたか」を厳密に証明しなければなりません。しかし、情報漏洩の損害を証明するのは非常に困難です。
そこで不正競争防止法第5条では、以下の金額を損害額とすることができるとしています。
- 侵害者がその行為によって得た利益の額と推定する
- 本来その情報を使用させることで得られたはずのライセンス料相当額を請求できる
- 侵害されたことで減少した販売製品・提供サービスの数量に基づく利益額を請求できる
裁判外での解決(示談・和解)を目指すメリットとデメリット
すべての事案が裁判になるわけではありません。弁護士名での警告書(内容証明郵便)を送付し、交渉によって解決を図ることも多いです。
- メリット:
早期解決ができる、裁判費用を抑えられる、公沙汰にならない。 - デメリット:
相手が拒否すれば強制力がない、賠償額が裁判より低くなる可能性がある。
| 項目 | 裁判(訴訟) | 示談(交渉) |
|---|---|---|
| 解決までの期間 | 1年〜2年以上 | 1ヶ月〜数ヶ月 |
| 費用 | 高め(着手金・報酬・印紙代) | 比較的安価 |
| 強制執行 | 可能 | 合意書(公正証書)が必要 |
| 公開性 | 原則公開 | 非公開(秘密保持が可能) |
持ち出しが発覚した直後に会社がすべき「証拠保全」の重要ステップ
法的手段を講じるには、何よりも「証拠」がすべてです。相手が「そんなものはもっていない」「自分で一から作った名簿だ」と嘘をついたときに、それを覆す証拠が必要です。
パソコンや業務用スマホのアクセスログ・操作履歴の確保
退職者が使用していたデバイスをすぐに初期化してはいけません。いつ、どのファイルにアクセスし、外部ストレージにコピーしたかというログを保存します。
電子メールの送受信履歴やクラウドストレージの書き出し状況
Bccで私用アドレスにデータを送っていないか、チャットツールでファイルを送信していないかを確認します。
元従業員による不自然なデータのバックアップ・印刷の有無
退職直前に大量の印刷を行った記録や、普段使わない大容量データの転送記録は、不正の強力な証拠になります。
デジタルフォレンジック調査が必要になるケースとは?
「ログが消去されている」「高度な隠蔽工作がされている」といった場合、専門業者によるデジタルフォレンジック(電子鑑識)が必要です。消されたデータの復元を試みることで、決定的な証拠が見つかることもあります。
不正競争防止法以外で問える可能性のある罪罰
不正競争防止法の要件を満たさない場合でも、他の法律で責任を追及できることがあります。
会社所有の備品を持ち出した場合の「窃盗罪」
顧客名簿が記載されたノートや、会社支給のUSBメモリそのものをもっていった場合は、刑法の窃盗罪(刑法235条)に該当します。
データを破壊・消去した場合の「電子計算機損壊等業務妨害罪」
腹いせに顧客データを削除して業務を停滞させた場合、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)が成立し、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
私的な利益を図る目的があった場合の「背任罪」
会社の利益に反して、自己または第三者の利益を図る目的で情報を流出させ、会社に損害を与えた場合、背任罪(刑法247条)の適用も考えられます。
今後の再発を防ぐ!顧客情報の持ち出しを未然に防ぐ社内体制の構築
起きてしまったことへの対処と並行して、二度と同じトラブルを起こさない体制づくりが不可欠です。
入社時・退職時の「秘密保持誓約書」の形骸化を防ぐコツ
単にサインをもらうだけでなく、対象となる情報の範囲を具体的に特定することが重要です。「会社のすべての情報」といった抽象的な書き方では、裁判で無効とされるリスクがあります。
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退職時の秘密保持誓約書はなぜ必要?効力が認められないケースや記載すべき項目について解説
就業規則の見直しと懲戒規定への「情報持ち出し」の明文化
「情報の無断持ち出しは懲戒解雇の対象となる」ことを明記し、全社員に周知徹底します。
ITツールを活用したアクセス権限の最小化とログ監視
「必要な人が、必要なときだけ、必要な情報にアクセスできる」最小権限の原則を徹底しましょう。また、「ログをとっている」という事実を社員に伝えること自体が、強力な心理的抑止力になります。
退職時の面談での警告と確認事項
退職時に、もち出している情報がないかを改めて確認し、もし競合他社で情報の利用が発覚した場合は法的措置をとる旨を口頭でも伝えます。
よくあるご質問
元社員に顧客リストを今すぐ返却させることはできますか?
可能です。まずは弁護士を通じて返却を求める警告書を送ります。これに応じない場合は、裁判所に「物の引き渡し」や「データの消去」を求める仮処分を申し立てることになります。
名刺の持ち出しも不正競争防止法の違反になりますか?
ケースバイケースです。単に交換した名刺を個人的にもっているだけでは難しいですが、会社が「名刺管理ソフト」などで一元管理し、組織の資産として扱っていた場合は、営業秘密として認められる可能性が高まります。
証拠が不十分な場合でも、まずは弁護士に相談すべきでしょうか?
はい。むしろ証拠が消えたり、相手が隠滅工作をしたりする前に相談してください。弁護士であれば、どのような証拠を集めるべきか、ログの保全はどうすべきかについて、法的な観点からアドバイスできます。
転職先が大手企業の場合でも、損害賠償請求で勝ち目はありますか?
相手の規模にかかわらず、不正の事実と損害の因果関係が証明できれば勝ち目は十分にあります。むしろ大手企業ほどコンプライアンス意識が高いため、弁護士からの警告を受けると早期に和解を申し出てくることも少なくありません。
まとめ:顧客情報の持ち出しでお悩みの企業様は弁護士へご相談ください
顧客情報の持ち出しは、単なる「マナー違反」ではなく、企業の存続を揺るがす重大な法的問題です。不正競争防止法を正しく理解し、迅速に証拠を固めることで、大切な顧客を守り、損害を最小限に抑えることができます。
「元社員が情報をもち出したかもしれない」と疑念を抱いたとき、あるいは確実な証拠を見つけたときは、感情的に動く前に、まずは専門家である弁護士へご相談ください。貴社の状況に応じた最適な解決策を提案し、毅然とした対応をサポートします。
監修者
弁護士法人グレイス企業法務部
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