企業法務コラム
【弁護士監修】業務委託契約書の書き方|記載すべき12の必須条項と立場別の注意点を解説
更新日:2025/10/29
1.そもそも業務委託契約書とは?作成する目的とメリット
業務委託契約は、民法上の請負契約(成果物の完成を目的とする)や委任契約・準委任契約(業務の遂行そのものを目的とする)の双方の性質を有することが多く、法律に明確な定義があるわけではありません。このため、法律に頼ることなく、業務委託契約について契約書で細かく契約内容を規定しておく必要があるのです。
また、フリーランス新法や、下請法・建設業法などの規制により、一定の場合には業務委託契約に関する契約書の作成が義務付けられている場合もありますから、注意が必要です。
このページでは、業務委託契約書の書き方と注意点について、記載例を用いながらポイント別に解説していきます。
2.なぜ必要?契約書を作成する3つの目的
業務委託契約書を作成することは、以下の重要なメリットをもたらします。
- ⑴ 目的①:「言った言わない」などのトラブルを防止するため
口約束や簡単なメールでのやり取りだけでは、業務の具体的な内容、報酬、納期などの認識にずれが生じ、のちに「言った言わない」の水掛け論になりがちです。契約書に双方の合意内容を明確に記載することで、曖昧さを排除し、予期せぬトラブルを未然に防ぐことが期待できます。 - ⑵ 目的②:業務内容と責任の範囲を明確にするため
受託者が具体的に何をどこまでの業務を行う義務があるのか、また、いつまでに業務を完了させる必要があるのかなど、業務内容と責任の範囲を明確にすることも、契約書の重要な役割です。特に、成果物の品質に問題があった場合(契約不適合責任)や、情報漏洩などの問題が発生した場合の責任の範囲や損害賠償についても定めることで、万が一の際の対処ルールを明確にできる点には重要な意義があります。 - ⑶ 目的③:取引先との良好な関係を築くため
また、契約書は、取引におけるルールブックです。事前にルールを明確にし、双方が理解・納得した上で契約を締結することこそが、取引先との間での信頼に基づいた良好かつ継続的な取引関係を築くための基盤となります。契約書によるルール策定が曖昧なままでは、取引先も安心してあなたの会社と取引を続けることはできません。
⑷ 業務委託契約と他の契約形態との違い
ちなみに、業務委託契約と他の契約形態には、どのような違いがあるのでしょうか。
- ① 請負契約・委任契約(準委任契約)との違い
前述の通り、業務委託契約は請負契約や委任/準委任契約の性質を有します。契約内容上、どちらの法的性質を強く持つかによって、受託者の負う責任や契約の解除に関するルールが異なります。
例えば、請負契約では原則として受託者に契約不適合責任が発生しますが、準委任契約では善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)をもって業務を遂行すればよく、成果がでなくても直ちに責任を問われるわけではありません。 - ② 雇用契約との違い
雇用契約は、労働者が使用者の指揮命令下で労働を提供し、使用者がその対価として賃金を支払う契約です。これに対し、業務委託契約は、受託者が独立した事業者として、自己の裁量をもって業務を遂行します。例えば、業務委託契約では、労働時間の制限や労働場所の制限は受けないことが一般的です。
業務委託契約であるにもかかわらず、実態として委託者が受託者に細かく業務の指示・管理を行うと、「偽装請負」と見なされ、労働法上の問題(残業代や社会保険料の支払い義務など)が発生するリスクがありますから、注意が必要です。
このような各種契約との違いを把握した上で契約書を作成することが重要ですから、ぜひ、業務委託契約書を作成する場合には、弁護士へご依頼ください。
3.業務委託契約書の書き方|必須で盛り込むべき12の重要条項【例文付き】
次に、業務委託契約書に必ず盛り込むべき重要条項を解説します。
① 契約の目的
【例文】「甲(委託者)は、乙(受託者)に対し、以下の業務を委託し、乙はこれを受託することを本契約の目的とする。」
まず、何のための契約かを明記し、契約全体を規定する基本的な条項です。例えば機密保持義務条項などでは、契約目的外の機密情報利用を禁止したりしますから、契約目的の範囲を定めることは重要です。
② 業務の内容
【例文】「本契約に基づき乙が遂行する業務は、別紙仕様書に定める○○システム開発業務とする。」
次に、委託する業務の範囲、内容、成果物(請負の場合)を具体的かつ明確に記載します。曖昧な表現はトラブルの元です。また、フリーランスに業務を委託する場合には、業務範囲を曖昧にすることは違法とされる可能性があります。「関連業務並びに付随業務の一切」などと規定する場合には、注意が必要です。
③ 業務の遂行方法
【例文】「乙は、本業務を善良なる管理者の注意義務をもって自己の責任で遂行するものとし、甲は乙に対し、労働時間等について具体的な方法について指揮命令を行わない。」
受託者が独立した事業者であることを明確にするため、指揮命令関係がないことを規定して偽装請負などとの指摘を回避することも重要です。
④ 報酬(金額、支払条件、時期)
【例文】「本業務の委託料は、金〇〇円(税抜)とし、甲は乙に対し、毎月末日締めで委託料を算定し、翌月末日までに甲指定の口座へ振込送金する方法により支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。」
報酬の具体的な金額(税抜・税込)、支払条件(一括か分割か)、支払時期(完了時、検収完了後など)、支払方法(振込先など)を明確に定めることも重要です。特に、支払時期については、業務完了後60日以内などと規制する法律がありますから、業態・委託先に合わせ、法律に反することのないように注意する必要があります。
⑤ 契約期間と更新の有無
【例文】「本契約は、本契約締結日から1年間効力を有するものとする。ただし、本契約期間満了の1か月前までに当事者のいずれかから更新を拒絶する意思表示がなされない場合には、本契約は同一条件で更新されるものとし、以降も同様とする。」
契約の開始日と終了日(契約期間)を明示することも重要です。継続的な取引の場合は、自動更新の有無や、更新しない場合の通知期限も規定します。
⑥ 成果物の権利の帰属
【例文】「本業務の成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他一切の知的財産権は、納品完了と同時に甲に帰属するものとし、乙は甲に対し、著作者人格権を行使しない。」
請負契約などの成果物の納入を要する契約の場合、納品された成果物(著作物や特許権など)の知的財産権(著作権など)が誰に帰属するのかを定める必要があります。
⑦ 禁止事項
受託者が業務遂行にあたって行ってはいけない行為を規定します。よく規定されるのは、競業避止条項や、後述の秘密保持義務条項、再委託禁止条項、権利譲渡禁止条項等です。
⑧ 秘密保持義務
【例文】「甲及び乙は、本契約遂行上知り得た相手方の営業上、技術上その他一切の情報を秘密として保持し、事前に相手方の書面による承諾を得ることなく、第三者に開示または漏洩してはならない。」
また、業務遂行を通じて知り得た相手方の秘密情報を保護するための規定を設けることも必須です。契約内容・契約相手に応じて、簡単な条項で済ませる場合もあれば、細やかな規定を設けておく場合もあります。
⑨ 損害賠償
【例文】「甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、相手方に直接かつ現実に生じた損害を賠償する義務を負う。」
場合によっては、契約違反があった場合の損害賠償の範囲や上限額を定めることもあります。特に、受託者側にとっては、賠償額を限定する条項が重要となります
⑩ 契約解除
また、どのような場合に契約を解除できるか、解除に伴う手続や精算方法も定める必要があります。こちらも相手方によって内容を吟味する必要があります。
⑪ 再委託の可否
【例文】「乙は、本契約に関する業務を、甲の事前の書面による承諾を得ることなく、第三者に再委託してはならない。」
業務の再委託を許容するか否かも、契約書に明記しておく必要があります。
⑫ 報告義務
【例文】「乙は、甲の求めに応じ、本契約に関する業務の進捗状況等を報告しなければならない。」
また、委託者側からすると、業務の進捗状況や契約上の義務の履行状況について報告義務を定めることも重要でしょう。
⑬ 契約不適合責任
特に請負契約の場合、納品された成果物が契約内容に適合しない場合(品違い、品質不良など)の修補、代金減額、損害賠償、契約解除などの責任を規定しておく必要があります。
契約不適合責任をどのように設けておくかは、成果物の種別などに応じて柔軟に検討する必要がありますから、まさに弁護士への個別の相談を要する条項といえます。
⑭ 反社会的勢力の排除
委託者・受託者双方が反社会的勢力と関係がないことを表明し、これに違反した場合に無催告で契約解除できることを定めます(暴排条項)。昨今は、コンプライアンス上、必須の条項といえます。
⑮ 合意管轄
【例文】「本契約に関連して生じた紛争については、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。」
契約書の終盤においては、契約に関して裁判上の紛争が生じた場合に、どの裁判所を管轄とするかを事前に定めておくこととなります。
4.【立場別】契約書を作成・チェックする際の注意点
続けて、立場別の業務委託契約書作成時の注意点についてご説明します。
⑴ 発注者(委託者)側のチェックリスト
まず、委託者側で業務委託契約書を作成する場合には、以下の事項に注意しましょう。
- ① 業務内容の具体性
- ② 権利の帰属
- ③ 契約不適合責任の内容
- ④ 秘密保持義務
- ⑤ 再委託の制限
⑵ 受注者(受託者)側のチェックリスト
次に、受託者側で業務委託契約書を作成する場合には、以下の事項に注意しましょう。
- ① 業務内容の特定
- ② 報酬の支払条件・支払時期
- ③ 権利の帰属
- ④ 責任の限定の内容
- ⑤ 解除の規定
5.業務委託契約書の作成でよくあるQ&A
ここで、業務委託契約書の作成でよくあるQ&Aについても確認しましょう。
テンプレート(ひな形)をそのまま使っても大丈夫?
業務委託契約書について、インターネット上などのひな形をそのまま使うのは避けるべきです。テンプレートは一般的な条項を網羅していますが、個別の取引における業務内容、契約形態(請負か準委任か)、取引規模、リスクなどに合わせて、必ずカスタマイズが必要です。特に、業務内容、報酬、権利の帰属、損害賠償などの重要条項は、自社に不利な内容になっていないか、入念に確認・調整してください。
電子契約で締結しても法的に有効ですか?
業務委託契約書を電子契約で締結しても、法的に有効です。いわゆる電子署名法に基づき、電子契約であっても書面契約と同様の法的な効力が認められます。電子契約には、印紙税が不要になる、契約締結の手間が削減される、管理が容易になるなどのメリットがあります。
5.契約書に関して弁護士に相談すべきタイミング
ちなみに、以下のような場合は、後のトラブルを防ぐためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
- ① 契約金額が高額な場合や長期にわたる契約の場合
- ② 契約内容において請負と準委任が混在しているなど、法的性質の判断が難しい場合
- ③ 知的財産権の帰属や秘密保持など、専門的な知識が必要な条項が含まれる場合
- ④ 相手方から提示された契約書の内容が自社にとって著しく不利に感じられる場合
こういった契約書を作成したりチェックしたりする場合には、弁護士の助力を得るべきです。
6.まとめ
以上のとおり、業務委託契約書の記載方法について解説しました。当事務所では、多くの企業顧問案件を扱っておりますので、契約書の作成・確認に慣れています。お悩みの際には、ぜひ、当事務所へのご相談をいただければと存じます。
監修者
弁護士法人グレイス企業法務部
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