企業法務コラム
労務費の転嫁交渉について弁護士がサポートできること
更新日:2024/09/09
労務費の転嫁とは
昨今は、物価高などにより、最低賃金額の増加・賃上げ交渉への応諾率の増加など、労務費・労務コストの増加が必要とされてきています。このような労務費増加分を、適切に取引価格に反映し、取引価格を増額することを「労務費の転嫁」といいます。
転嫁交渉の重要性
労務費の増加分を全て自社負担とするのではなく、取引価格へも反映させるために、労務費の適切な転嫁を目指す転嫁交渉が重要となります。
転嫁交渉が適切に行えない場合には、労務費増加コストの負担に苦しみ、場合によっては物価高に対応できない程度の賃金支払いしかできなくなる可能性すらあります。このような場合には、従業員のモチベーション低下や退職数増加を招くこととなりかねません。
以下では、公正取引委員会が令和5年に発表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を踏まえ、転嫁交渉のポイントなどについてご説明します。
転嫁交渉のポイント(12の行動指針)
上記指針によれば、転嫁交渉時には、発注者・受注者双方に、以下のような行動指針が求められるといわれています。
特に発注者がこれらの行動指針において求められる行動に沿わない行為をした場合で、公正な競争を阻害するおそれがあるときは、公正取引委員会による厳正な対処がなされると明言されていることから、下請け業者としては、積極的に元請け業者に不正な行為がないかチェックすることが必要です。
1.発注者としての行動(6つ)
- ⑴ 経営トップが労務費転嫁を受け入れる取組方針を具体的に決定し、社内外に示すこと・その後の取組状況に合わせた更なる対応方針を示すこと
- ⑵ 受注者からの労務費転嫁交渉がなくとも、発注者から定期的に取引価格引上げのための協議の場を設けること
- ⑶ 労務費上昇の根拠資料の提出などを受注者に求める場合は、公表資料に基づくものとし、公表資料を用いて希望する取引価格は合理的な根拠があるものとして尊重すること
- ⑷ 受注者から要請された取引価格の妥当性判断時には、受注者のみならず、サプライチェーン全体の労務費増加など、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を意識して反映させること
- ⑸ 受注者から取引価格の引上げを求められた場合、取引停止などの不利益な取扱いをせず、協議のテーブルにつくこと
- ⑹ 受注者からの取引価格引上げ申入れの巧拙にかかわらず、受注者と協議を行い、労務費上昇分の価格転嫁に関する考え方を提案すること
発注者がこれらの行動をとらなかったことで、公正な競争が阻害された場合には、独占禁止法・下請法に違反するものとして指導等がされる可能性があります。下請け業者としては、これらに違反する行動を取られたとしても、諦めることなく転嫁交渉をするべきといえるでしょう。
2.受注者としての行動(4つ)
- ⑴ 労務費上昇分の価格転嫁交渉の仕方について、国・地方公共団体・商工会議所等の相談窓口に相談するなど、積極的に情報収集して交渉に臨むこと
- ⑵ 価格転嫁の交渉において使用する労務費の上昇傾向を示す根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額・上昇率などの公表資料を用いること
- ⑶ 価格転嫁の交渉は、定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力を比較的優位に行使できるタイミングなどの機会を活用して行うこと
- ⑷ 発注者から価格提示されるのを待たずに、受注者側からも、自社及びサプライチェーン全体の労務費を考慮した上で、希望価格を提示すること
受注者(下請け業者)は、通常、発注者と比較して弱い立場にあります。このような立場にある受注者が優位に労務費の転嫁交渉を進めることができるよう、オススメの行動方法を定めているのが、上記4つのポイントとなります。受注者は、これらに則って転嫁交渉を進めるべきといえます。
3.発注者・受注者双方が採るべき行動(2つ)
- ⑴ 定期的にコミュニケーションをとること
- ⑵ 価格交渉の記録を作成し、発注者・受注者の双方で保管すること
これらの2点は、転嫁交渉を進めるに際して最も基本的な注意点として定められています。当然の事項を定めているといえますが、価格交渉の有無・妥当性についてのちの争う場合には、証拠・記録の有無が重要ですから、特に記録の作成・保管は重要です。
転嫁交渉の実例
価格交渉については先例的な判例・裁判例まではありませんが、転嫁を拒否するような企業のうち、独占禁止法に違反する可能性があるものについては、定期的に公正取引委員会が社名公表を行っていますので、実例として見ることができます。
このような公表は、下請け業者からの通報などによって行われます。公表によってレピュテーション・リスクをおそれ、発注者としても転嫁交渉を不当に拒否することのないように適正な行動をとるよう求めることが重要です。
適切な価格で下請け取引ができなかった場合の対応方法
労務費の転嫁交渉を不当に拒否されるなどして、適切な価格で下請け取引ができなかった場合には、すぐに諦めるのではなく、上記の行動指針などを用いて発注者の不当行為を是正するよう求めながら交渉を粘り強く続けるべきです。
労務費の転嫁交渉を専門の弁護士がサポート
このような労務費の転嫁交渉を行う場合には、専門の弁護士のサポートを受けることが必要不可欠です。上記行動指針や独占禁止法・下請法に関する確固たる知識を備えた弁護士から、適宜アドバイスを受けるなどしながら交渉を進めることを強くお勧めします。
まとめ
以上、労務費の転嫁交渉について解説をいたしました。発注者との間での労務費の転嫁交渉・価格交渉にお悩みの方は、まずは当事務所にご相談ください。
監修者
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