企業法務コラム
事業譲渡契約について
更新日:2023/12/21
1. 事業譲渡契約について
事業譲渡は、会社を売買するにあたり(M&Aと呼ばれることもあります)、株式譲渡と並んで、利用が検討される取引形態です。
事業譲渡は、株式譲渡と異なり、会社の支配権(株式)を買収するのではなく、会社に存在する個々の資産・負債等を個別に買収する点に特徴があります。そのため、買収する個々の資産・負債を特定する必要があり、これにより、偶発債務を承継してしまうリスクを遮断することができます。他方で、個々の資産・負債を買収することになるため、手続も、個々の資産・負債ごとに逐一行わざるを得ず、事務処理が煩雑になる傾向があります。
株式譲渡は、売買の対象になる会社の全てを譲渡の対象としますので、会社の組織(役員構成など)・株式も譲渡の対象になりますが、事業譲渡ではそのようなことは生じません。このような基本的な視点を踏まえて、一般的な事業譲渡契約は、以下のような構成になります。
2. 一般的な事業譲渡契約の構成
2-1. 前文
売主と買主を規定します。株式譲渡と異なり、売主は、売買の対象となる会社(以下「対象会社」といいます)そのものになります。
2-2. 事業譲渡の概要
以下のような項目を規定します。
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売買対象となる資産・負債等の特定
通常は、売買対象となる対象会社の①資産、②負債、③契約、④従業員、⑤知的財産権等に項目を分けて、それぞれについて、買収する対象を個別に特定します。特定は、事業譲渡契約書の別紙にリストを付ける方法で行うこともあります。ポイントは、以下の点です。
- いわゆる隠れ債務・偶発債務について、どの部分を承継対象とするか/しないかを明記すべきです。この点は、特に、買主にとって重要なポイントになります。
- 売買対象となる資産について、売主が瑕疵担保責任を負うか否かを決定すべきです。なお、事業譲渡の場合は、後記のとおり、売主が表明保証責任を負うことが通常であるため、表明保証責任でカバーする場合も多くあります。
- 承継対象となる従業員は、対象会社を退職し、買主に新規に入社することになります。そのため、対象会社の退職金をどのように処理するか/買主に新規入社した後の雇用条件が、ポイントになります。
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譲渡対価
譲渡対価の総額を規定します。なお、契約締結日から事業譲渡の実行日までの間に、譲渡の対象になる資産・負債等の内容が変動する可能性が高い場合には、譲渡対価を事後的に調整する旨の規定が設けられる場合もあります。
2-3. 事業譲渡の実行
以下のような項目を規定します。
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事業譲渡の実行日を特定する必要があります。
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事業譲渡の実行日に売主及び買主が行うべき事項を規定する必要があります。
[売主]
譲渡の対象になる資産・負債等に関する承継手続を行う必要があります。例えば、不動産であれば、所有権の移転登記を行う必要があります。個々の資産・負債等ごとに行う必要があるため、費用を売主・買主のいずれが負担するかを規定する必要があります。
[買主]
譲渡対価を支払います。また、売主と協力して、譲渡の対象になる資産・負債等に関する承継手続を行う必要があります。
2-4. 表明保証
事業譲渡も、株式譲渡と同じように、譲渡の対象になる資産・負債等の内容に関して、売主による「品質保証」を行うことが通常です。この「品質保証」を、一般的に「表明保証」といいます具体例として、以下のような事項があります。
- 譲渡する対象の事業の計算書類が正確であること
- 譲渡する対象の事業に重大な後発事象が発生していないこと
- 譲渡する対象の資産/知的財産権/重要な契約に問題がないこと
- 譲渡する対象の事業に法令違反がないこと
- 承継対象となっている従業員に未払残業代がないこと
- 譲渡する対象の事業に訴訟/紛争がないこと
- 譲渡する対象の事業に未納の租税公課がないこと
- 譲渡する対象の事業に反社会的勢力との関与がないこと
- 譲渡する対象の事業について、対象会社が買主に対して重要な情報をすべて開示したこと
契約書作成の段階で、上記の内容に反する事実がすでに検出されている場合もあります。その場合は、その事実を表明保証の例外事項として明記して、それ以外には表明保証の違反がないという記載にします。
2-5. 売主の誓約事項
契約締結日から実行日までの間に日数が開くことが通常であるため、この間に、売主に約束をしてもらう事項を規定します。具体例として、以下のような事項があります。
- 実行日までの間に、善管注意義務に従って、譲渡する対象の事業の経営を行うこと
- 譲渡する対象の事業に重大な影響を与える可能性がある行為をするときは、事前に買主の了解を得ること
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譲渡する対象の事業が、特定の許認可に基づき運営されている場合には、買主がこの許認可を取得するために協力をすること
事業譲渡では、譲渡する対象の事業に関する許認可は、自動的に買主に引き継がれず、買主側にて、許認可を取得する必要があるためです。
これら以外にも、誓約事項を適宜追加することがあります。
2-6. 買主の誓約事項
買主の約束としては、主として、実行日以降の義務として、以下のような内容が想定されます。
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実行日以降の一定期間内に、対象会社の代表取締役が対象会社のために負担していた承継対象となっている借入について、連帯保証に代わる代替措置を講ずること
対象会社の代表取締役が、対象会社の借入にあたり、連帯保証をしていることが通常です。対象会社の代表取締役は、事業譲渡により、買主に転籍しないため、これに伴い、連帯保証の負担を外す手続が必要になります。
これ以外にも、誓約事項を適宜追加することがあります。
2-7. 競業禁止
実行日以降、売主が、譲渡をする対象の事業と同種の事業を新規に立ち上げると、買主にとって不測の事態になるため、一定期間について、そのような競業行為を行わない旨の約束をすることがあります。
2-8. 秘密保持
事業譲渡は、通常、外部に公表することを想定していないため、秘密保持に関する規定が設けられます。
2-9. 前提条件
事業譲渡の実行にあたり、前提として、以下の点がクリアされていることを条件とすることが一般的です。
[売主が満たすべき前提条件]
一般的に、以下の点が事前にクリアされていない場合は、買主として、事業譲渡を実行する義務を負いません。全体的に、事業譲渡においては、売主による表明保証、誓約事項の数が多くなるため、前提条件は、主として、買主にとって実益のある規定ということができます。
- 売主による表明保証が正確であること
- 売主による誓約事項が履行されていること
[買主が満たすべき前提条件]
一般的に、以下の点が事前にクリアされていない場合は、売主として、事業譲渡を実行する義務を負いません。
- 買主による表明保証が正確であること
- 買主による誓約事項が履行されていること
これら以外にも、前提条件を適宜、追加することがあります。
2-10. 解除
事業譲渡は、実行日までの間にしか、解除することができません。実行日以降に問題が発生した場合は、損害賠償により対処することになります。解除事由としては、一般的に、以下の事項があります。
- 重大な表明保証違反
- 重大な事業譲渡契約の違反
- 法的倒産手続の開始
2-11. 損害賠償
一般的に、以下の点に関する違反が発覚した場合は、損害賠償の対象になります。全体的に、事業譲渡においては、売主による表明保証、誓約事項の数が多くなるため、損害賠償は、主として、買主にとって実益のある規定ということができます。
- 表明保証違反
- 事業譲渡契約の違反
実務上は、損害賠償に関して、以下の点が重要な交渉事項になることがよくあります。
- 損害賠償請求を行うことができる期間
- 損害賠償額のトータルの上限
- 1件当たりの損害賠償額の下限(1件あたりX円以下の請求は損害賠償の対象としないというものです)
2-12. その他
裁判管轄等の一般的な条項が規定されます。
3. まとめ
事業譲渡契約は、他の契約と比較して、内容が多岐にわたり、複雑な構成になることが多くなることから、専門家である弁護士のサポートを受けて進める必要が高いといえます。事業譲渡契約については、豊富な経験を有する当事務所にご相談ください。
監修者
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