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企業法務コラム

建設業法と下請業者の保護

投稿日:
更新日:2020/11/13

建設業

下請業者の保護を目的とする法律として、下請代金支払遅延等防止法(通称「下請法」)があります。

建設業は、下請法の適用を受けないことになっていますが、その代わりに、建設業法により下請業者の保護が図られています。

そのため、建設業に関わる方にとって、建設業法の理解は、必須事項となります。

中でも、建設業法上の「下請業者の保護」を目的とする内容は、元請会社にとって、重要なポイントとなりますので、ご説明します。

1. 下請代金の支払

原則として、注文者から請負代金の出来高払・竣工払を受けたときは、その工事を担当した下請業者に対して、その工事に関する下請代金を1か月以内に支払う必要があります。

手形による支払のケースでは、長期手形が禁止されており、120日以内の支払サイトであることが必要になります。

2. 不当に低い請負代金の禁止

元請会社は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その工事を施工するために通常であれば必要になるはずの原価よりも低い金額で、下請業者と請負契約を締結することが禁止されています。

一般的に、元請会社は、下請業者との間で優越的な地位にあります。そのため、下請業者を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いることが禁止されています。

例えば、元請会社が、自らの予算額のみを基準として、下請業者による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結する場合や、下請業者に対して、「この条件で契約を締結しない場合には、今後の取引において不利な取扱いをする可能性がある」と示唆して、従来の取引条件よりも下請業者にとって劣後する条件で下請契約を締結する場合が、典型例です。

また、それ以外にも、「指値発注」と呼ばれる行為が、違反行為に該当します。「指値発注」は、後記3で具体的に説明します。

なお、この規制は、請負契約の締結時だけでなく、いったん締結した請負契約の契約条件を事後的に変更する場合にも適用されます。

3. 指値発注

「指値発注」は、実務上では、以下のようにいくつかの類型がありますが、下請業者の明確な同意を得ずに行われることが多く、頻繁に問題になります。いずれも建設業法の違反になる可能性が高いため、注意が必要です。

① 元請会社が、自社の予算額のみを基準として、下請業者と協議をせずに、一方的に請負代金の額を決定すること

② 元請会社が、合理的な理由なく、下請業者から提出された見積額による見積額よりも著しく低い金額で請負代金額を一方的に決定すること

③ 元請会社が、下請業者に対して、複数の下請業者から提出された見積金額のうち最も低い額をもって、一方的に請負代金の額とすること

④ 元請会社が、下請業者から提出された見積書に記載されている労務費等の内容を検討せずに、一方的に「X%の値引き」を要求して請負代金の額とすること

⑤ 元請会社と下請業者との間で請負代金額の合意ができていないにもかかわらず、下請業者に工事を開始させて、その後に一方的に請負代金額を決定すること

⑥ 元請会社が、下請人に見積りのための時間を与えずに、自らの予算額を下請業者に提示して、その場で下請業者に判断を迫ることにより、請負代金額を決定すること

4. 赤伝処理

「赤伝処理」は、実務上では、以下のようにいくつかの類型がありますが、下請業者の明確な同意を得ずに行われることが多く、頻繁に問題になります。建設業法の違反になる可能性が高いため、注意が必要です。

① 元請会社が、一方的に提供等をした物品費・建設廃棄物の処理費・下請代金の振込手数料等を、下請業者の同意なく請負代金から差し引くこと

② 元請会社が、実際には建設廃棄物の排出がないにもかかわらず、建設廃棄物の処理費用という名目で、一定額を請負代金から差し引くこと

③ 元請会社が、販売協力費等の名目で、根拠が不明確な費用を請負代金から差し引くこと

④ 元請会社が、工事用に確保した駐車場・宿舎を下請業者に使用させるにあたり、実際よりも過大な使用料を請負代金から差し引くこと

⑤ 元請会社が、下請業者の責任・費用負担の区分を明確にせずに、やり直し工事のみを別の業者に行わせたうえで、そのやり直し工事の費用を請負代金から差し引くこと

5. 一括下請負の禁止

元請会社が請け負った工事を、一括して下請業者に委託するような行為は、禁止されています。これは、発注者の保護を目的とした規定ではありますが、下請業者に過分な責任を負わせることを回避するという点において、下請業者の保護を間接的に図るものともいえます。

なお、民間工事(共同住宅の新築工事を除きます)のケースでは、事前に発注者の書面による同意を得ている場合には、一括下請負の禁止規定が適用されません。言い換えますと、全ての公共工事・民間工事のうち共同住宅の新築工事は、例外なく一括下請負の禁止が適用されます。

6. その他の規制

その他の規制として、

  • ・ 請負契約締結後の資材購入の強制
  • ・ やり直し工事の強制

等が禁止されています。

前者は、請負契約締結後に、元請会社が、自らが指定する資材等を下請業者に購入させ、結果として、下請業者に過大な金銭的負担を負わせることを避けるものです。

後者は、元請会社が、下請業者の責任・費用負担の区分を明確にせずに、やり直し工事を下請業者に行わせて、費用負担を強制することを避けるものです。

7. まとめ

建設業法が、下請業者の保護を目的として設けている規制の大要をご説明しました。

これら以外にも、建設業法は、契約締結時の書面交付義務等を具体的に定める等して、下請業者の保護を図っています。

また、2020年10月に施行された建設業法の改正でも、下請業者の保護が追加的に図られています。こちらは、【建設業法の改正】(https://www.kotegawa-law.com/column/4707/)をご参照ください。

【著者情報】

企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)

九州大学大学院法学研究科修士課程 修了

米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業

三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務

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監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

本店所在地
〒105-0012 東京都港区芝大門1丁目1-35 サンセルモ大門ビル4階
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