企業法務コラム
退職代行を使われた会社が取るべき対応と注意点について弁護士が解説
更新日:2024/06/26
退職代行とは
退職代行とは、退職をしたいが自分では申し出ることができない・退職をいたいが社長と会わずに退職したい、といった要望を持つ従業員から依頼を受け、会社に対して従業員の退職の意思を伝えるサービスを指します。近年、退職代行を業務とする業者が増えており、メディアでも取り上げられるようになっています。
会社からすると、退職代行業者から突然連絡が入った場合には、大変困惑することでしょう。しかも、労働法上、従業員から退職の意向が示された場合にこれを拒むことは困難であるため、対応に苦慮しがちです。以下、退職代行を使われた企業側の対応・注意点についてご説明します。
退職代行を使われた企業側の対応手順
1.退職代行業者の身元・依頼の有無の確認
退職代行を使われた場合には、まず、代行業者が実在する企業なのか、また、本当に従業員から依頼を受けているのか確認することとなります。特に、従業員から依頼を受けていない者による詐欺行為であった場合には、取り合う必要がありませんから、無視して差し支えないでしょう。退職代行業者を使われた場合でも、退職届は従業員本人から送付してもらう、委任状・依頼関係を示す資料の提示を受けるなど、依頼の有無の確認方法は様々あります。なお、退職代行の依頼を受けた弁護士から連絡があった場合には、通常弁護士が依頼を受けずに連絡することはありませんから、この点の手順は不要です。
2.退職日・有休の消化の処理の検討
従業員から退職の意思を伝えられた場合、会社からこれを拒むことはできませんから、就業規則などを確認し、退職日を調整・決定することとなります。また、有給休暇の消化をさせないことも労働法上違法となりますから、社労士・労務担当者などと相談しながら、有給休暇の日数を確定することも必要です。
3.各種退職手続の履行、貸与品・私物返還の調整
会社として退職届を取得しておく必要がある場合には、本人作成の退職届を会社に送付させましょう。これと同時に、健康保険証及び貸与品の返還も受けるべきです。
退職届を受領したら、各種社会保険の脱退手続を行います。また、未払給与がないか確認し、支払方法に変更がないか従業員に確認するべきです。
会社に私物がある場合には、当該私物を従業員に取りに来てもらう必要があります。しかしながら、退職代行業者を利用する従業員であれば、私物を自ら取りに来ることは期待できませんから、着払いなどの方法によって従業員本人に送付するなどの対応を取った方が良い場合もあります。
4.従業員退職後の体制を整える
従業員の退職を拒むことは難しく、また、退職代行業者に依頼をするような従業員が再び会社に復帰して働くこと自体期待したがいですから、早急に従業員が退職した穴を埋める必要があります。
以上のような対応が一般的なものとなりますが、職種次第では、取引先との折衝状況の引継ぎを求める、立替金の精算をする、などの雑務がある場合もあります。これらの対応を行うことが煩雑で面倒である場合には、退職代行業者とのやり取りを全て弁護士・顧問弁護士に任せてしまうことも選択肢として検討すると良いでしょう。
社員に退職代行を使われた場合の注意
退職代行業者を使われると、経営者としては、怒りを感じて感情的に怒鳴ってしまったり、従業員本人に感情的なメール・LINE等を送信したりしてしまいがちです。しかしながら、そういった感情的な対応をのちにパワハラの証拠などとして不利に利用されることを避けるためにも、冷静な対応を心がけましょう。
同様の理由から、違法に退職意思を拒絶したり、有給休暇を与えないなどと回答したり、罰金と称して給与を支払わなかったりするなど、法律に反する対応を取らないように注意することも重要です。
ちなみに、退職代行業者が弁護士でない場合には、弁護士法上、従業員に代わって退職金・退職条件の交渉をすることはできませんから、退職代行業者が独自の判断で交渉をしているように見受けられる場合には、必ず本人の意向を確認するよう求めましょう。場合によっては、退職代行業者の交渉行為が刑事罰が科される「非弁行為」(弁護士法72条)に該当する可能性があるから交渉には応じないと回答することも有用です。
また、退職代行を使われた場合には、退職理由・退職代行業者を利用しようと考えた訳も確認しておくと良いでしょう。従業員本人の資質の問題だけではなく、会社内部にセクハラ・パワハラなどの人的問題がある場合に退職代行業者が利用されることが多い傾向にあります。経営者として把握していない社内の問題点が発覚することもありますから、このような問題の有無についても尋ねておくべきです。
まとめ
退職代行を使われた場合の対応手順と注意点は以上のとおりとなります。対応の際に時間的コストも人的コストも要することとなりますから、退職代行業者とのやり取りを弁護士に一任してしまうこともあり得る選択です。
ぜひ、平時から、顧問弁護士を依頼しておくなど、弁護士に気軽に相談できる体制を構築しておくことをお勧めします。
監修者
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