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企業法務コラム

従業員が会社の従業員や顧客を引き抜くことは違法なのか

投稿日:2019/10/27
更新日:2023/12/22
従業員が会社の従業員や顧客を引き抜くことは違法なのか

1. はじめに

従業員が会社の従業員や顧客を引き抜いて退職することが度々問題となります。会社にとっては、会社の資本を投下して獲得した顧客を引き抜けれた場合の損害は計り知れません。しかし、従業員による会社の顧客の引き抜きは秘密裏に行われることが多く、実際に裁判において引き抜き行為の違法性を立証し、これを違法と判断してもらうのは容易ではありません。また、そもそも引き抜き行為が全て違法と判断されるわけではありません。さらに、問題となる引き抜き行為が在職中の行為であるのか、退職後の行為であるかのでも判断は分かれる可能性もあります。そこで、本コラムでは、従業員が会社の顧客を引き抜いた場合の違法性について解説いたします。

2. 従業員が在職中の場合

2-1. 従業員の引き抜き行為を禁止する社内規程等が必要か

従業員の引き抜き行為を禁止する社内規程等が必要か

そもそも、従業員による引き抜き行為はどのような根拠で違法と判断されるのでしょうか。

まず、従業員が在職中の場合は、就業規則に引き抜き禁止に関する規定がなかったり、従業員から引き抜き禁止に関する合意書を取得していなかったとしても、従業員は引き抜き禁止義務を負うと解されています。これは、雇用契約が一度締結されると、およそ会社の従業員は、使用者に対して、雇用契約に付随する信義則上の義務として、就業規則を遵守するなど労働契約上の債務を忠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負っていることから、従業員は会社に対して同誠実義務により就業規則の規定の有無にかかわらず当然に顧客や従業員を引き抜いて会社に損害を与えることは許されなと考えられているためです。

また、これは、労働契約に当然に付随する義務として、従業員には、会社の職務に専念する義務があることもその根拠といえます。

もっとも、引き抜き行為は、その引き抜きが単なる転職の勧誘を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合に、初めて誠実義務違反となり、問題の従業員が会社に対して債務不履行責任ないし不法行為責任を負うと考えられています。

なお、従業員は会社に対して以上のような義務を負うことから、在職中の顧客の引き抜き行為については、より悪質性が認められやすいと考えられます。

以上のとおり、引き抜きの違法性については社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法かという基準で判断されるため、単に独立の挨拶をする程度では違法な引き抜きとはいえないと考えられます。そのうえで、違法と判断されるのは、在職中に会社の顧客から収益を上げていることや単に挨拶する程度を超えて必要な働き掛けをしている、その他引き抜き行為が会社に与える影響といった諸々の事情を総合考慮して、最終的に引き抜き行為が違法となります。

2-2. 実務で必要になる対応

実務的には、就業規則等の社内規程により、引き抜き禁止の範囲を明確にする等の対応が望まれます。

第1に、従業員に対して、引き抜き禁止義務があることを明確に認識させるためには、社内規程に明示的に規定することが望ましいためです。

さらに、入社時に誓約書を提出してもらい、従業員に引抜き行為をしてはならないと明確に認識させることも重要です。

第2に、従業員が在職中に引き抜き禁止義務に違反した場合には、会社として懲戒処分を検討することになりますが、社内規程に規定がないと、懲戒処分をすることができないという事態に陥る可能性があるためです。

このように、従業員が在職中の場合には、社内規程により、引き抜き禁止義務に関する規定の整備を行っておくことが重要になります。

2-3. 実務で注意すべき点

このような競業は、従業員や顧客の引き抜きと併せて行われることも多くあります。

上記のとおり、引き抜き行為は、競業行為に類する性質を持っていますので、競業禁止に関する判断基準が適用される場合もありますが、裁判例では、競業禁止義務とは別の基準により判断されることが多いようです。

前述のとおり、裁判例では、単なる転職の勧誘を行った程度であれば、引き抜き行為の違法性を認めていません。引き抜き行為の違法性が認められるためには、社会的相当性を逸脱した極めて背信的な方法であることが必要とされています。具体的には、会社に対して事前の予告を行わずに、内密に移籍の計画を立て、一斉に多数の従業員を引き抜くような場合には、違法性が認められるとされています。

このように、引き抜き行為は、一般的な競業禁止とは、別の基準で違法性が判断される傾向があります。

3. 従業員が退職した場合

3-1. 引き抜き禁止に関する社内規程等が必要か

引き抜き禁止に関する社内規程等が必要か

従業員が会社を退職した後に、同業他社に転職したり、新たに同種の事業を立ち上げることにより、競業をすることがあります。

このような競業は、従業員や顧客の引き抜きと併せて行われることも多くあります。

上記のとおり、引き抜き行為は、競業行為に類する性質を持っていますので、競業禁止に関する判断基準が適用される場合もありますが、裁判例上は、上記のとおり、競業禁止義務とは別の基準により判断されることが多いようです。

裁判例では、従業員が退職した後に引き抜き行為を行った場合も、従業員が在職中に引き抜き行為を行った場合と、ほぼ同様の基準により、違法性が判断されているようです。

したがって、引き抜き行為については、引き抜き行為を行った従業員が在職中か否かで、基準が大きく変わることはないと考えられます。

もっとも、前述のとおり、従業員は在職中には会社に対して職務に専念する義務がありますが、退職後の従業員には退職後には会社に対してそのような義務を負っていない以上、行為の悪質性の認定では違いが生じる可能性があります。また、従業員や顧客が自ら退職した従業員の設立した会社に移ること自体は違法とはいえません。

また、実務上は、従業員が退職した後に引き抜き行為を行った場合には、就業規則に引き抜き禁止に関する規定を設けているか、従業員から引き抜き禁止に関する誓約書を取得していることが望ましいと考えられます。

3-2. 引き抜きにより移籍した従業員

引き抜きにより移籍した従業員は、職業選択の自由があります。

そのため、移籍した従業員に課せられている競業禁止義務に違反しない限り、移籍した従業員には、責任を追及することはできません

4. 引き抜き行為が違法となった場合について

以上の判断を踏まえて、従業員による顧客又は従業員の引き抜き行為が違法とされた場合は、当該従業員は会社に対して、会社が被った損害を賠償しなければなりません。

5. まとめ

従業員の移籍及び顧客の引き抜きリスクは、どのような会社でも問題になり得る点ですが、職業選択の自由がある以上、対応方法については、慎重な検討が必要になります。また、引き抜き行為については秘密裏に行われることが多いことや実際に引き抜かれた従業員や顧客が会社に有利な証言等をしてくれることは稀です。そのため、引き抜き行為が違法であるということを立証できるかというハードルもあります。具体的な対応策は、引き抜き行為の態様により異なりますので、弁護士に相談しつつ進める必要があります。

監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

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