企業法務コラム
メンタルヘルス対応について解説
更新日:2023/12/11
第1 メンタルヘルスに関して使用者に課せられる法律上の義務
「メンタルヘルス」とは、文字通り「精神面での健康」の意味ですが、近時における労働環境の見直しに伴い、労働環境におけるメンタルヘルスがクローズアップされています。法律上もメンタルヘルスに関して使用者に種々の義務を課しており、代表的なものとして、ストレスチェックの義務を課す労働安全衛生法、ハラスメント防止措置義務を定めた労働施策総合推進法、過労死等の防止対策を定める過労死等防止対策推進法等が挙げられます。
そこで、以下では、メンタルヘルスに関して使用者に法律上課せられた義務のうち、労働安全衛生法が定まるストレスチェックを中心に取り上げ、説明いたします。
第2 ストレスチェックについて
1 ストレスチェックとは
労働安全衛生法66条の10は、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。」と定めています。ここにいう「検査」のことを「ストレスチェック」と呼んでいます。
このストレスチェックは労働者数50人以上の事業場については使用者に対し、1年以内ごとに1回、実施が義務付けられております。
また、ストレスチェックの実施についての実際の調査審議は、事業者が設置する「衛生委員会」が行います。衛生委員会は、常時使用する労働者が50人以上の事業者にはその設置が義務づけられています。
2 ストレスチェックの対象者となる労働者
次の要件をいずれも満たす者がストレスチェックの対象となります。
- ア 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
- イ その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
なお、使用者にはストレスチェックを実施する義務が課せられていますが、労働者にはストレスチェックを受けなければならない義務が課されている訳ではありません。もっとも、事業者としては、メンタルヘルス不調を防止する観点から、労働者に対しストレスチェックを勧めることが重要です。
3 ストレスチェックを実施する者
医師、保健師、又はストレスチェックを行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した看護師等。
4 ストレスチェックによる検査事項
検査事項の次の内容をさえ含まれていれば、特に指定はなく、事業所ごとに任意に定めることができます。
- ストレスの原因に関する質問項目
- ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目
- 労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目
なお、この検査は一般健康診断で精神面の症状に関する問診を行ったことをもって代えることはできません。また、ストレスチェックは健康診断から除かれますので、健康診断の中で、ストレスチェックを実施することはできません。
5 ストレスチェック後の対応
- ア ストレスチェックにより回収した調査票をもとに、実施者のアドバイスや衛生委員会による審議を経て、事業者がストレスの程度を評価・決定します。
その評価をもとに、実施者が個々の面接指導の要否を判断し、最終的には個々の労働者に対し浄化結果とともに面接指導の要否を通知します。
事業者は、高ストレス者とされた労働者の申し出があったときは、当該申し出をした労働者に対し、医師による面接指導を行わなければなりません。また、その結果、医師の意見を聴いた上で必要な場合には、就業場所の変更や労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければなりません。 - イ 事業者は、医師による面接指導の実施後に、ストレスチェックと面接指導の実施状況につき、労働基準監督署に報告しなければなりません。
6 ストレスチェック実施時の注意点
事業者は、従業員が医師による面接指導を受けたいとの申し出を受けたことや、ストレスチェックを受けないこと等を理由として、当該従業員に対し、労働契約上の不利益取扱いを行うことが禁止されています。また、面接指導の結果を理由として、解雇、雇止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換・職位の変更等を行うことはできません。
これらの趣旨を徹底するため、労働者の人事に関し権限を持つ者がストレスチェックの事務に従事することはできない点に注意が必要です。
第3 メンタルヘルスに関する判例の紹介
メンタルヘルスに関し判示した興味深い判例として、最高裁平成26年3月24日判決をご紹介します。
これは、業務に起因してうつ病にり患した労働者が、使用者に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償等を請求した事案です。そして、判例は、本件の事案のもとにおいて、労働者の精神疾患にかかる使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償額の算定にあたって、労働者が自らの精神的健康(メンタルヘルス)に関する情報を使用者に申告しなかったことを理由として、過失相殺により損害賠償額を減額することを否定しました。
判例は、その判旨の中で次のように述べています。
「使用者は、労働者の申告の有無を問わず、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っており、労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある。」
この判例を取り上げるのは、使用者側に課せられている安全配慮義務が非常に高度なものであるという点をご理解いただくためです。同判例については、「使用者は、労働者に課している業務負荷の程度を踏まえ、労働者の体調変化などの兆しを注意深く観察し、必要に応じて業務軽減などの積極的措置をとることが安全配慮義務として求められていることを改めて明らかにした」とも評釈されております。
第4 メンタルヘルス対応に関するご相談は弁護士法人グレイスへ
メンタルヘルス対応は近時になって義務化された制度であり、実際における取り組み方や実務上の疑問点が多く生じることが予想されます。他方で、メンタルヘルス不調をきっかけとして従業員対応に苦慮することとなる使用者側からのご相談も実際には多数寄せられているところです。
これらの対応を誤ると、メンタルヘルス不調に悩まされているという個々の労働者の問題のみならず、ハラスメント問題に発展したり、使用者側の安全配慮義務違反の責任が厳しく追及されるおそれもあります。そのため、事前予防・事前対策が非常に重要となります。
メンタルヘルス対応に関するご相談は、是非、弁護士法人グレイスまでお問い合わせください。
監修者
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