企業法務コラム
変形労働時間制と残業代
更新日:2024/08/06
東京・神戸・福岡・熊本・長崎・鹿児島に拠点がある弁護士法人グレイスの労働法コラムです。
今回のテーマは、変形労働時間制と残業代についてです。
今回のテーマは変形労働時間制です。早速ですが、そもそも変形労働時間制とは、何ですか。
簡単に言えば、時期や業務の特殊性によって、業務の忙しい時期と忙しくない時期があるときに、繁忙期の所定労働時間を長くし、その代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするというように、労使が工夫して時間配分を行い、その結果、全体の労働時間の短縮を図ろうとする制度です。
労働者の主導ではなく、あくまでも使用者が、労働時間を臨機応変に運用する制度ということですね。制度の内容を正確に理解していなくて、残業代を支払わなくてもよいと誤解している会社もいそうですね。
はい。導入にあたって、いくつかの手続を経る必要があり、また導入後も残業代の計算も複雑になるため、正確に理解しておく必要があります。以下では、導入比率が高い「1年単位」の変形労働時間制について、お話します。
「1年単位」の変形労働時間制とは、どのような制度で、どんな手続が必要ですか。
労使協定を締結して、1週間の労働時間が40時間以下の範囲内にて、1日及び1週間の法定労働時間を超え、労働時間とすることができる制度です。第1に、同制度の採用には、労使協定にて、① 対象となる労働者の範囲、② 対象期間、③特定期間(対象期間のうち特に繁忙が予想される期間)、④労働日、⑤当該労働日毎の労働時間、⑥有効期間を決めて、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。第2に、就業規則で、①変形労働時間制の内容、②始業・就業時間を決める必要があります。
第1の労使協定の内容には、とくに上限無く、決めて良いのですか。
いいえ。1年単位の変形労働時間制は、労働者の生活設計に多大な影響を与えるものです。そのため、労働基準法上、①連続労働日数:最大6日、②労働時間の上限:1日10時間、1週52時間、③週48時間を超える週:連続3週間以内、④週48時間を超える週:3ヶ月に3週以内、⑤1年間の実労働日数上限:280日といった上限が定められています。
どのような業種で上手く活用できるでしょうか。
年単位で見て、季節により繁閑の差異が生じる業種(プール、旅館、百貨店、デパート、スキー場、製造業、私立学校など)では、割増賃金の支払いを削減できるメリットがあります。そして、あらかじめ法の上限内(1日あたり10時間、1週あたり52時間)で、1週あたりの所定労働時間を長く(例えば50時間)定めることで、年間の総枠内に収まる限り、割増賃金の支払いを避けることができます。
気を付けなければいけないことはありますか。
年間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間以内に収める必要があるため、その上限を超過した場合は、割増賃金を支払う必要があります。そのため、閑散期の所定労働時間を、法の原則である1日8時間よりも短くすることとなります。この長短を個別に設定しないままで、一律に1週あたりの所定労働時間を設定した場合には、採用するメリットはないといえます。
制度を採用して、どの程度の時間外手当の支払いを削減できそうですか。
繁忙期が予想される期間の長さによって異なりますが、日数、休日等を事前に固定することで、節約することができる時間外手当は、最大で1日あたり2時間分程度となることが多いです。
導入に向けて、労使協定の締結、就業規則の見直しが必要となり、併せて、正確な勤怠管理システムも採用し、会社全体で労働時間や、時間外手当について考える良い機会となりそうですね。
監修者
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