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企業法務コラム

残業代の時効が3年になることの本当の意味

2022/05/09
残業代の時効が3年になることの本当の意味

1. 時効が「3年」に延長されたことの正確な意味

時効が「3年」に延長されたことの正確な意味

残業代の時効は、令和2年(2020年)4月1日以降、全ての会社について2年から3年に延長されています。これは、同日に民法が改正されたことによるものです。民法の改正により、時効は原則として5年となりましたが、残業代の時効が2年から5年に変更になりますと、会社に対する影響が大きすぎること等により、当面の間について、3年とされています。なお、3年に延長されたのは、いわゆる給与・手当・残業代に関するものであり、退職金の時効は5年になっています。

ここで注意すべき点は、過去の残業代の時効が全て2年から3年に変更になるわけではないという点です。
令和2年(2020年)3月末日までの残業代の時効は、引き続き2年のままです。
そのため、会社側の残業代負担のイメージとしては、令和4年(2022年)4月1日以降、1日分ずつ潜在的な残業代が増えていき、令和5年(2023年)4月以降は、常に過去3年分の残業代リスクを負うことになります。
残業代の時効が2年から3年になりますと、会社が負担する残業代リスクは、単純計算で1.5倍になります。

2. 未払残業代リスクが顕在化する契機

未払残業代のリスクが顕在化する要因は、主として、①労働基準監督署からの調査、②従業員からの請求の2つがあります。
前者は、基本的に調査対象となった拠点の全従業員に影響があります。
後者は、請求をしてきた従業員(典型的なケースは「元」従業員からの請求です)のみにとどまりますが、この方が他の方にも話して回るリスクはあり、そうすると金額的なインパクトが増すことになりえます。

3. 未払残業代がどのようにして増えていくのか

未払残業代がどのようにして増えていくのか

いずれのケースであっても、実際の残業時間が厳格に検証されることになります。残業時間は、いわゆる終業時刻後の残業のみを指すものではありません。
早出の出勤であっても、業務の準備等を行っていることが恒常化しているようなケースであれば、労働時間にカウントされます。
また、休憩時間(12時から13時の1時間と定められているケースが多いと思います)であっても、適切に取得できていないのであれば、その時間は労働時間にカウントされます。
また、労働時間の管理方法も問題になります。
従業員の自己申告(いわゆる「日報」制)を採用している会社であっても、日報の内容がそのまま残業時間として認定されるわけではありません。裁判所も労働基準監督署も、「実態」を重視して残業時間を判定します。往々にして、日報では残業時間が過少に記載される傾向がありますので、日報の有効性は割り引いて評価されるとお考えください。
他方で、タイムカード等の方法で労働時間管理を行っている会社のケースでは、余程の例外的事情がない限り、タイムカード等で集計された時間がそのまま残業時間として認定されることになります。
1日あたりの残業時間のうち一定時間を切り捨てている(例:1日あたり15分未満切り捨て処理)ケースもよく見受けられますが、このような処理は基本的に認められませんので、残業時間にカウントされる要因となります。
それ以外にも、「名ばかり管理監督者」の問題(管理監督者としての実質を備えていないにもかかわらず管理監督者扱いをしていることにより、結果として残業代の支払が適切に行われていないケースをいいます)・「各種手当の基準内/基準外賃金の分類」の問題(手当を基準外賃金として残業代計算の分母から除外してよいケースは限定されており、本来であれば基準内賃金としてカウントすべきであるにもかかわらず、基準外賃金に分類してしまっているケースをいいます)といった論点もよく見受けられます。

一言で残業代といいましても、実際には、このような複数の点が混在しているケースが多く、それぞれの点で残業代が累積して増えていき、全体として大きな金額になってしまうこともよくあります。

4. 「固定残業代」制度は機能しない

残業代の対策として、「固定残業代」制度が使われているケースをよく見かけますが、残念ながら、合法的な設計となっている固定残業代制度は少ないのが実情です。多くのケースでは、固定残業代制度が合法的に運用されていないため、制度としての意味をなしていない状態です。
そもそも、固定残業代制度は、あらかじめ決めた時間(例:月20時間で設定)分の残業代を毎月支払っておき、実際の残業がこれを超えた場合には(例:月25時間の残業が発生)、超過分(前記の例でいえば5時間分)を追加で支払うというものです。そのため、会社として、残業代コストの抑制に資することはありません。固定残業代制度を導入したからといって、会社が支払うべき残業代の総額が減ることはないとご理解ください。

5. まずは会社の現状把握から

まずは会社の現状把握から

未払残業代の支払義務が確定しますと、会社は一括で支払をしなければならず、分割払いは原則として認められていません。そのため、金額次第では、会社の資金繰り・財務状態に大きな影響が出る可能性があります。
未払残業代リスクは、会社の経営を行っていく上で決して無視することができない重要性を持ち始めていますが、労働基準監督署からの調査・従業員からの請求を受けてからの対応では、「手遅れ」になってしまいます。問題が顕在化してから運用を変えても、それにより会社の負担額が減ることはありません。

「問題がある」とは思っていながらも、具体的にどの点に問題があるかの検証まで着手できていない会社が大半ではないでしょうか。しかし、これを放置していると、その状態が積みあがってしまい、時間だけが過ぎていきます。時間が過ぎていくということは、残業代の時効が3年に延長されたことの影響を正面から受けることを意味します。

まずは、会社の現状を労働基準法に照らして検証し、どの点に問題があり、どの程度の未払残業代リスクがあるのかの把握をすることが重要です。それにより、リスクの大要を把握することができ、今後の対応策につながっていきます。

当事務所では、未払残業代リスクの簡易診断サービスをご提供しています。これを機に、ご活用をぜひご検討ください。

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