変形労働時間制により残業代を節減できるか

1. 変形労働時間制とは

変形労働時間制という言葉をお聞きになった方も多いと思われますが、その実態は、必ずしも正確に理解されていないことが多いように思われます。
変形労働時間制とは、季節により業務の繁閑があるような会社について、繁閑の地程度に応じて、労働時間の分配を行うことができる制度です。
変形労働時間制には、1年単位・1か月単位・1週間単位の3つがあります。実務上は、1年単位と1か月単位のいずれかが使用されることが多いため、ここでは、実務上のご相談が特に多い1年単位の変形労働時間制に絞って、ご説明をいたします。
2. 1年単位の変形労働時間制を導入するために必要な手続
1年単位の変形労働時間制を導入するためには、労使協定で、以下の内容について定める必要があります。労使協定は、労基署に届け出る必要があります。
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① 対象となる労働者の範囲
範囲を明確に設定する必要があります。
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② 対象期間
1年間に設定することが多いと思われます。
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③ 特定期間(対象期間のうち特に繁忙が予想される期間をいいます)
定めを置かないことも可能です。特定期間について定めのない場合には、「特定期間を定めない」旨定められているとみなされます。
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④ 労働日
1年間のカレンダーを添付し、その中に労働日を特定する方法などが、典型的なものです。
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⑤ 当該労働日ごとの労働時間
予想される繁忙の程度に応じて、個別に設定することが多いと思われます。
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⑥ 有効期間
1年間に設定することが多いと思われます。
この手続が、適切に行われていない会社が散見されますので、注意が必要です。また、実務上は、就業規則にも定めることにより、従業員に対して周知を行います。
3. 1年単位の変形労働時間制と残業代
1年単位の変形労働時間制を採用した場合、以下の時間のみが、時間外労働として割増賃金の支払対象になります。
- ① 1日の実労働時間が、所定労働時間と8時間のいずれも超えた部分
- ② 1週の実労働時間が、所定労働時間と40時間のいずれも超えた部分
- ③ 1年の実労働時間が、2085.71時間を超えた分
1年単位で見たときに、繁閑の差異が季節的に生ずることが予定されている業種(例:デパートや私立学校)において、割増賃金の支払いを削減できるというメリットがあります。
そのような繁忙期については、あらかじめ、法律が認める上限内(1日あたり10時間、1週あたり52時間)で、①の1日あたり所定労働時間を長くしたり(例:9時間)、②の1週あたり所定労働時間を長くしたり(例:48時間)しておけば、1日8時間・1週間40時間という原則ルールを超過しても、①・②・③の枠内に収まる限り、割増賃金を支払う必要がないことになります。
ところが、会社によっては、どの勤務日も1日あたりの労働時間と1週間あたりの労働時間が同じになっている場合があります。これだと、1年単位の変形労働時間制を採用した意味が薄くなってしまうことがあります。
4. 1年単位の変形労働時間制を導入する際の注意点

1年単位の変形労働時間制は、会社にとって、メリットがある制度になり得ますが、手続・運用の方法が正確に理解されていないような状況も散見されます。
1年単位の変形労働時間制を導入する場合の注意点は、以下のとおりです。
第1に、1年単位の変形労働時間制は、労働者の生活設計に影響を与える度合いが強いため、法律上、以下のような上限が定められています。
- ① 連続労働日数:最大6日
- ② 労働時間の上限:1日10時間、1週52時間
- ③ 週48時間を超える週:連続3週間以下
- ④ 週48時間を超える週:3ヶ月に3週以下
- ⑤ 1年間の実労働日数上限:280日
第2に、休日労働・深夜労働を行った場合には、法律に従った割増分を支払う必要があります。
第3に、上記2で説明した労働日の特定方法です。実務上、カレンダーやシフト表を使用することが多いですが、記載が不十分であるために、有効性に疑義が生じているケースが散見されます。
このように、1年単位の変形労働時間制の導入には、クリアする必要がある条件がいくつもあります。導入をお考えの場合は、当分野に強い弊所へご相談ください。