企業法務コラム
退職勧奨とは?解雇との違いや違法にならない言い方・進め方を弁護士が徹底解説
更新日:2026/01/07
「社員の能力不足や勤務態度に悩み、辞めてもらいたいがトラブルは避けたい」
そのように頭を抱える経営者・人事担当者の方は少なくありません。
- 問題社員を解雇して訴えられるのが不安
- 穏便に辞めてもらうための具体的な「言い方」がわからない
- 退職勧奨の正しい進め方や法的な注意点を知りたい
もしこのようなお悩みをおもちなら、この記事が解決の糸口となります。結論からいうと、問題社員への対応は、一方的な「解雇」ではなく、合意による「退職勧奨」から始めるのが鉄則です。なぜなら、解雇は裁判で無効になるリスクが非常に高い一方、退職勧奨は双方の合意さえあれば、のちの法的トラブルを回避して柔軟に解決できるからです。
この記事では、顧問先企業750社以上の実績をもつ弁護士が、現場で役立つ実務ノウハウを徹底解説します。
- この記事でわかること
-
- 退職勧奨と解雇の決定的な違いとメリット
- 違法にならない面談での具体的な「言い方」と進め方
- 従業員に拒否された場合の正しい対処法
退職勧奨とは、企業が従業員に対し退職の合意を求める行為であり、法的リスクの高い「解雇」を避けるための有効な手段です。強制力はありませんが、双方の合意があれば柔軟な条件で円満な解決が可能となります。
成功の鍵は、違法な「退職強要」にならないよう、適切な「言い方」とプロセスを遵守することです。面談では感情論を排し、客観的な事実と相手のメリットを提示して交渉を進めます。万が一拒否された場合は深追いせず、業務改善指導などの実績を積むことが重要です。
トラブルを未然に防ぎ、適法かつスムーズに進めるためには、弁護士法人グレイスへご相談ください。初回相談は無料です。
目次
- 1. 退職勧奨とは?企業が知っておくべき定義と法的性質
- 2. なぜ企業は解雇ではなく「退職勧奨」を選ぶべきなのか
- 3. 【実務フロー】トラブルゼロを目指す退職勧奨の具体的な進め方
- 4. 【ケース別】退職勧奨の理由として認められる正当な要素
- 5. 退職勧奨の面談での具体的な「言い方」と切り出し方
- 6. 違法な「退職強要」にならないための注意点とNG行動
- 7. 従業員が退職勧奨を「拒否」した場合の対処法
- 8. 退職勧奨における「解決金(退職金上乗せ)」の相場と考え方
- 9. 退職勧奨を弁護士に相談・依頼すべきタイミングとメリット
- 10. 退職勧奨に関するよくあるご質問
- 11. まとめ:法的リスクを回避し、円満な組織運営を目指すために
1. 退職勧奨とは?企業が知っておくべき定義と法的性質
会社が従業員に「退職を願い出る」合意形成のプロセス
「退職勧奨(たいしょくかんしょう)」とは、会社が従業員に対して「退職してくれないか」と働きかけ、退職の合意を求める行為のことです。一般的には「肩たたき」と呼ばれることもあります。
多くの経営者様が「問題社員を辞めさせる=解雇」と考えがちですが、実務上、いきなり解雇を選択することはほとんどありません。まずはこの退職勧奨によって、話し合いによる解決を目指すのがスタンダードな手法です。
強制力はなく、あくまで従業員の「自由な意思」が前提
退職勧奨の最大の特徴は、従業員に「退職に応じる義務はない」という点です。会社側からのアプローチはあくまで「お願い」や「提案」に過ぎません。したがって、従業員が「辞めます」と承諾して初めて退職の効果が生じます。
もし従業員が「辞めたくありません」と拒否した場合、会社は無理やり退職させることはできません。この点が、会社の一方的な意思表示で契約を終了させる「解雇」とは根本的に異なります。この「合意」というプロセスを経るからこそ、のちの紛争リスクを抑えられるのです。
法的な規制が緩やかで、柔軟な解決が可能な手段
解雇には労働基準法や労働契約法による厳格な規制がありますが、退職勧奨そのものを直接規制する法律の規定はありません。原則として、会社は自由に誰に対しても退職勧奨を行えます。
もちろん、行き過ぎた勧奨は「退職強要」として違法になりますが、適切な範囲内であれば、退職日や退職金などの条件を柔軟に話し合って決めることが可能です。法律の枠組みに縛られすぎず、お互いの妥協点を探れるのが退職勧奨の強みといえるでしょう。
【比較表で解説】退職勧奨と「解雇」の決定的な違い
退職勧奨と解雇は、どちらも「会社を辞めてもらう」という結果は同じですが、そのプロセスとリスクは天と地ほどの差があります。以下の比較表で違いを確認しましょう。
| 項目 | 退職勧奨(合意退職) | 解雇 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 双方の合意による契約解消 | 会社からの一方的な契約解除 |
| 従業員の同意 | 必要(拒否できる) | 不要(拒否できないが争える) |
| 実施のハードル | 低い(自由に行える) | 極めて高い(厳格な規制あり) |
| 紛争リスク | 低い(合意書があれば安全) | 極めて高い(訴訟リスク大) |
| 退職金の扱い | 就業規則または合意内容による | 就業規則による(不支給は限定的) |
| 解雇予告手当 | 不要 | 原則必要(30日分以上) |
| 離職票の理由 | 会社都合(または事業主推奨) | 会社都合(解雇) |
実施のハードル(解雇権濫用法理との関係)
解雇を行う場合、労働契約法第16条に定められた「解雇権濫用法理(かいこけんらんようほうり)」の壁を越えなければなりません。
労働契約法 第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128/
「能力不足」や「数回の遅刻」程度では、客観的に合理的な理由とは認められず、解雇は無効となります。日本の労働法では、正社員を解雇するのは非常に難しいのが現実です。一方、退職勧奨にはこのような厳しい法的要件はありません。
紛争リスク(訴訟になった場合の勝率とコスト)
解雇を強行し、従業員から「不当解雇だ」として訴えられた場合、会社側が勝訴する(解雇有効と認められる)ハードルは極めて高いです。もし敗訴すれば、解雇期間中の給与(バックペイ)を全額支払い、さらに従業員を職場復帰させなければなりません。これには数百万円単位のコストと、多大な労力がかかります。
退職勧奨であれば、合意の上で退職しているため、あとから「不当だ」と訴えられるリスクは大幅に低減します。
退職後の扱い(解雇予告手当の有無など)
解雇の場合、原則として 30
日以上前の予告か、解雇予告手当の支払いが必要です。しかし、退職勧奨による合意退職であれば、解雇ではないため予告手当の支払義務はありません。ただし、円満退職のために解決金として同等の金額を支払うケースはよくあります。
退職勧奨と「退職勧告」「希望退職」との違い
退職勧告との用語の使い分け
「退職勧告(たいしょくかんこく)」という言葉もよく聞かれますが、法律用語としては「退職勧奨」が正確です。「勧告」という言葉には、公務員法上の手続きや、より強いニュアンス(懲戒処分の前段階など)が含まれることがありますが、民間企業の実務においては「退職勧奨」と同じ意味で使われていると考えて問題ありません。
ただし、懲戒解雇に相当する事由がある場合に、情状酌量として「諭旨解雇(ゆしかいこ)」や「退職勧告」を行い、自己都合退職の形をとらせるケースもあります。
希望退職(人員整理)との目的の違い
「希望退職の募集」は、業績悪化時などに条件(退職金の上乗せなど)を提示し、広く退職者を募るものです。対象が不特定多数である点や、経営上の理由が主である点が異なります。
対して退職勧奨は、「特定の従業員(問題社員など)」を対象に、個別にアプローチを行うものです。目的が「組織の選別・最適化」にある場合が多いといえます。
2. なぜ企業は解雇ではなく「退職勧奨」を選ぶべきなのか
企業法務の現場において、弁護士が「まずは退職勧奨から」と助言するのには、明確な理由があります。
企業側が得られるメリット
不当解雇として訴えられるリスクを低減できる
最大かつ最強のメリットは、法的リスクのコントロールです。前述のとおり、解雇は「伝家の宝刀」であり、抜いてしまえば後戻りできません。裁判で無効と判断されるリスクがつねにつきまといます。
退職勧奨によって合意退職の形をとれば、「会社と従業員が話し合って納得した」という証拠を残すことで、あとから解雇無効を主張される可能性を低減できます。
条件や時期を柔軟に設定できる
解雇は就業規則や法律に従って厳格に行う必要がありますが、退職勧奨は契約交渉です。例えば、「引継ぎのためにあと1ヶ月いてほしい」という会社の都合と、「次の仕事が決まるまで在籍したい」という本人の希望をすり合わせることができます。
円満な雇用関係を終了できる可能性がある
「クビだ!」と通告されれば、誰しも会社を恨みます。その結果、未払い残業代を請求されたり、口コミサイトに悪評を書かれたりするなどの報復リスクが高まります。
退職勧奨で「あなたの将来のために」と誠意をもって話し合い、納得して退職してもらえれば、会社への恨みを最小限に抑えられます。これは、残った他の社員への動揺を防ぐためにも重要です。
組織の最適化と効率化ができる
能力不足の社員や周囲とトラブルを起こす社員を抱え続けることは、組織全体のパフォーマンスを低下させます。退職勧奨を適切に活用することで、組織の新陳代謝を促し、優秀な社員が働きやすい環境を守れます。
退職勧奨のデメリットと留意点
拒否されたら強制的に辞めさせることはできない
あくまで「お願い」であるため、従業員が「絶対に辞めません」と頑なになった場合、それ以上無理強いはできません。そこから解雇に踏む切るには、また別のハードルを越える必要があります。
解決金(パッケージ)の支払いが必要になる場合がある
スムーズに合意を得るために、退職金の上乗せや解決金(給与の数ヶ月分など)を提示する必要が出てくる場合があります。コストはかかりますが、将来の紛争コストと比較すれば安く済むケースがほとんどです。
従業員側にもメリットがあることを理解する(説得材料)
履歴書に「解雇」と傷がつかず、再就職に有利
解雇された場合、再就職の面接で退職理由を聞かれた際に「解雇されました」と答えざるを得ず、採用が不利になることがあります。合意退職であれば「会社都合」や「一身上の都合」として処理できるため、経歴に傷がつきません。これは強力な説得材料になります。
失業保険(雇用保険)で「会社都合」扱いになれば給付が早い
自己都合退職の場合、失業保険の受給までに2〜3ヶ月の給付制限期間がありますが、会社からの退職勧奨による退職は「会社都合(特定受給資格者)」として扱われるのが原則です。これにより、待期期間(7日間)経過後すぐに受給でき、給付日数も長くなるなどのメリットがあります。
3. 【実務フロー】トラブルゼロを目指す退職勧奨の具体的な進め方
ここからは、実際に退職勧奨を行う際の実務フローを解説します。行き当たりばったりの面談は失敗の元です。綿密な準備こそが成功の鍵を握ります。
Step1. 事前準備と戦略立案(ここが最重要)
面談を始める前に、勝負の8割は決まっています。以下の準備を徹底してください。
退職を求めざるを得ない「客観的な理由」の棚卸し
なぜその社員に辞めてもらいたいのか、理由を具体的に言語化します。「なんとなく合わない」といった主観的な理由では説得できません。「営業目標未達が1年以上続いている」「遅刻が月5回以上ある」など、客観的な事実を洗い出します。
就業規則の確認とこれまでの指導記録(証拠)の整理
就業規則のどの条文に抵触するのかを確認します。また、これまで会社がどのような指導・注意を行ってきたかの記録(注意指導書、メール、面談メモ)を整理します。
「会社はこれまで改善のチャンスを与えてきたが、それでも改善しなかった」というストーリーが、正当性を担保します。
対象者の性格分析と想定される反応(反発・沈黙・泣き落とし)の予測
対象となる社員がどのような反応をするかシミュレーションします。
- 攻撃的なタイプ: 録音をしてきたり、パワハラだと騒いだりする可能性があります。
- 依存的なタイプ: 泣き出したり、生活苦を訴えたりするかもしれません。
それぞれの反応に対し、どう切り返すか(あるいは一時休戦するか)の想定問答集を用意しておきましょう。
Step2. 社内方針の決定と役割分担
誰が面談するか(直属の上司か、人事か、役員か、弁護士が同席するか)
基本的には、直属の上司と人事担当者など、事情をよく知る者を含めた2名体制が望ましいでしょう。社長がいきなり出ていくと角が立つ場合もありますし、逆にトップダウンで話したほうが早い場合もあります。関係性を考慮して人選します。
弁護士が同席すると、相手が萎縮して警戒心を高めるリスクもありますが、法的な説明が必要な難易度の高いケースでは有効です。
提示条件(退職金の上乗せ、有給消化など)の決裁をとる
どこまで譲歩できるかの「手持ちのカード」を決めておきます。
- 退職金の上乗せ額(給与〇ヶ月分まで)
- 有給休暇の買取可否
- 再就職支援サービスの提供
これらを事前に決裁しておかないと、面談中に即答できず、交渉が長期化します。
Step3. 面談の実施(初回〜数回)
適切な場所と時間のセッティング(個室・就業時間内)
場所は、他の社員に聞かれない会議室などの「個室」を確保します。カフェや居酒屋は情報漏洩のリスクがあり不適切です。
時間は、業務時間内に行います。就業後の呼び出しは残業代の問題や、拘束感を与えるため避けましょう。1回の面談時間は30分〜1時間程度にとどめます。
同席者の決定。面談は「2名体制」で行う
必ず「会社側2名 対 社員1名」で行います。1対1では「言った言わない」のトラブルになりますし、逆に会社側が大人数で囲むと「威圧」「退職強要」とみなされるリスクがあります。
1人が話し役、もう1人が記録・観察役となるとスムーズです。
記録を残すことが鉄則
面談の日時、場所、出席者、発言内容を詳細に記録します。録音をとることも有効です。「正確な記録のために録音させていただきます」と断りを入れて録音することも考えられます。ただし、状況的に録音が難しい場合は、メモ取りに徹しましょう。
Step4. 条件交渉と合意形成
回答期限の設定と検討期間の付与
初回の面談で即答を求めるのは避けましょう。「重要なことですので、一度持ち帰って家族とも相談して考えてみてください」と、1週間程度の検討期間を与えます。これにより「冷静に考える時間を与えられた」という事実が残り、強要の主張を防げます。
金銭条件や退職日のすり合わせ
2回目以降の面談で、具体的な条件を詰めます。相手が難色を示している場合は、「もし今月中に合意いただけるなら、解決金を〇〇万円上乗せできます」といった条件提示を行うことも考えられます。
Step5. 退職合意書の締結と完了手続き
後日の言った言わないを防ぐ「清算条項」の重要性
合意に至ったら、必ず「退職合意書」を作成し、署名捺印をもらいます。ここでは以下の条項を入れることが不可欠です。
- 退職日と退職事由(合意退職であること)
- 解決金の額と支払時期
- 清算条項(せいさんじょうこう):「本合意書に定めるもののほか、会社と従業員の間には何らの債権債務がないことを確認する」という文言。
この清算条項がないと、退職後に「未払い残業代がある」「慰謝料を払え」と請求されるリスクが残ります。
貸与品の返却と離職票の手続き
PC、スマホ、社員証、保険証などの返却物リストを確認し、確実に回収します。また、離職票の離職理由欄は「事業主からの働きかけによるもの(会社都合)」と記載するのかどうか、合意内容に基づいて正確に処理します。
4. 【ケース別】退職勧奨の理由として認められる正当な要素
退職勧奨は自由に行えますが、説得力のある理由が必要です。よくあるケースごとのポイントを解説します。
従業員側の要因(能力・態度)
著しい能力不足・成績不良(指導しても改善が見られない)
単に「成績が悪い」だけでは不十分です。「他の社員と比較して著しく低い」「ミスが多発しており業務に支障が出ている」といった事実が必要です。また、会社が研修やOJTを行い、改善の機会を与えたかどうかも重要です。
勤務態度の不良・無断欠勤・協調性の欠如
遅刻、早退、無断欠勤の回数や、業務中の私語、居眠りなどの記録が根拠になります。上司の指示に従わない、同僚へ暴言を吐くといった協調性の欠如も、職場の秩序を乱す正当な理由となります。
私生活上の非行や犯罪行為
横領、痴漢、飲酒運転など、会社の信用を失墜させる行為があった場合です。懲戒解雇も検討できるケースですが、温情措置として退職勧奨を行い、自主退職を促すことも考えられます。
企業側の要因(経営不振)
部門閉鎖や業績悪化に伴う人員整理の必要性
いわゆる「整理解雇」の前段階としての退職勧奨です。会社の存続のために人件費削減が必要であることを、決算書などの数字を用いて誠実に説明する必要があります。この場合、従業員に落ち度はないため、解決金の提示がより重要になります。また、人員整理の場合、対象となる人員の選定が合理的な理由によるものかを検証する必要があります。
5. 退職勧奨の面談での具体的な「言い方」と切り出し方
多くの担当者が最も悩むのが「具体的に何と言えばいいのか」です。ここでは、弁護士監修のトークスクリプトを紹介します。
話の切り出し方(アイスブレイク〜本題)
まずはこれまでの労いと、会社の現状認識を伝える
いきなり本題に入らず、まずは場を作ります。
「○○さん、今日はお時間をいただきありがとうございます。最近の業務について、少しじっくりお話ししたいと思い、時間を設けました」
単刀直入かつ丁寧に「退職を考えてほしい」と伝えるフレーズ
話が核心に入ったら、曖昧な表現は避け、会社の意思を伝えます。
「これまで○○さんのご状況を見てきましたが、残念ながら会社が期待する成果と、現状には大きな乖離があります。会社としても指導を続けてきましたが、これ以上の改善は難しいと判断しています。そこで、今後のキャリアについて、別の道(退職)も含めて検討していただけないかと考えています」
理由を説明する際の伝え方
感情的にならず、事実(評価結果・指導履歴)に基づいて話す
「あなたの態度が気に入らない」といった感情論はNGです。
「昨年の営業目標が未達であり、今年に入ってからも改善が見られません。〇月〇日に注意した件についても、同様のミスが続いています。このままでは、○○さんにとっても辛い状況が続くと懸念しています」
会社としても「配置転換」や「教育」に尽力した経緯を伝える
「会社としても、営業部から総務部への異動や、〇回の研修実施など手を尽くしてきましたが、残念ながら適性を見出すことができませんでした」
と伝え、会社側に落ち度がないことを示唆します。
従業員のメリットを強調するクロージング
「あなたにとっても、新しい環境の方が活躍できる」という動機付け
相手のプライドを傷つけすぎないよう配慮します。
「今の当社の環境では、○○さんの良さを活かしきれていないと感じます。別の環境であれば、その能力を発揮できるかもしれません」
退職条件(金銭・有休)の優遇措置を提示する際の言い回し
「もし今月中に退職の合意をいただけるのであれば、会社としては退職金に給与〇ヶ月分を上乗せする用意があります。また、次の職場が決まるまでの活動期間として、有給休暇もすべて消化していただいて構いません。経済的な不安がない形で、新しいスタートを切っていただきたいと考えています」
6. 違法な「退職強要」にならないための注意点とNG行動
退職勧奨は一歩間違えれば「退職強要(違法行為)」となり、損害賠償請求の対象となります。以下の境界線を厳守してください。
絶対に言ってはいけないNGワード
「辞めないならクビにする」「解雇だ」という脅し
これは典型的な脅迫です。「退職届を出さなければ解雇する」という発言は、従業員の自由な意思決定を侵害するものとして、違法性が極めて高いと判断されます。
「給料泥棒」「寄生虫」などの人格否定
能力不足を指摘するのと、人格を攻撃するのは別問題です。「お前がいると迷惑だ」「給料泥棒」といった発言は、パワハラおよび不法行為となります。
やってはいけないNGケース
執拗・長時間・頻回の呼び出しを行うケース
- 1回数時間の面談を連日行う
- 「辞めると言うまで部屋から出さない」と告げる
これらは退職強要と認定されます。
退職を拒否すると不利益があると示唆・脅すケース
「辞めないなら、僻地へ転勤させる」「給料を下げるぞ」と、不当な人事権の行使をちらつかせて退職を迫ることも違法です。
侮辱的発言・人格否定を伴う退職勧奨
大声で怒鳴る、机を叩くなどの威圧的な態度も、当然ながら違法です。
配置転換・降格・懲戒などを「退職させるため」に乱用するケース
いわゆる「追い出し部屋」への配置や、仕事を与えない、あるいは達成不可能な過酷なノルマを与えるなど、退職に追い込むための嫌がらせは違法となります。
違法と判断された過去の裁判例(判例解説)
実際の裁判でも、行き過ぎた勧奨は厳しく断罪されています。
下関商業高校事件(執拗な勧奨)
事案: 教員に対し、数ヶ月の間に10回以上の面談を行い、執拗に退職を迫った。
判決: 最高裁は「退職勧奨は、被勧奨者の自由な意思決定が妨げられるような状況で行われた場合は違法となる」とし、損害賠償を認めました。
教訓: 「辞めない」と明確に言っている相手にしつこく迫ってはいけません。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/90002.html
全日空事件(長時間・多数回の面談)
事案: 客室乗務員に対し、約4ヶ月間にわたり30回以上、合計8時間以上に及ぶ面談を行った。「寄生虫」などの発言もあった。
判決: 大阪高裁は、限度を超えた退職勧奨として違法とし、慰謝料の支払いを命じました。
教訓: 回数や期間が常軌を逸している場合、それだけで違法性を帯びます。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07736.html
7. 従業員が退職勧奨を「拒否」した場合の対処法
どれほど準備しても、拒否されることはあります。その場合の対応が、会社の真価を問われます。
原則として「深追い」は厳禁
拒否の意思表示後は、勧奨を一時中断すべき理由
従業員が「絶対に辞めません」と明確に拒否した場合、それ以上勧奨を続けると「退職強要」になります。一度引き下がるのが鉄則です。「わかりました。本日はこれ以上お話ししません」と面談を打ち切りましょう。
拒否された後の選択肢
退職勧奨を断念したとしても、会社ができることはまだあります。
業務改善プランの実施と記録化
業務改善計画を実施します。具体的な数値目標を設定し、定期的に進捗を確認します。
これは、社員の能力向上を目指すものであり、同時に「会社は指導を尽くした」という解雇に向けた証拠作り(客観的プロセスの積み上げ)にもなります。
配置転換や降格処分の検討(人事権の行使)
今の部署で成果が出ないのであれば、適性がありそうな他部署へ異動させる、あるいは能力に見合った職位へ降格させることを検討します。これらは就業規則に基づき、人事権の範囲内で適正に行う必要があります。
最終手段としての「普通解雇」へのステップとハードル
業務改善計画や配置転換を行ってもなお改善が見られない場合、初めて「普通解雇」が視野に入ります。ここまでのプロセスを数ヶ月〜1年かけて積み上げていれば、解雇の有効性が認められる可能性が高まります。いきなりの解雇ではなく、このプロセスを踏むことが重要です。
8. 退職勧奨における「解決金(退職金上乗せ)」の相場と考え方
合意形成をスムーズにするための「潤滑油」としての金銭について解説します。
解決金の法的義務と実務的な役割
法律上の支払い義務はないが、合意を得るための潤滑油
退職勧奨において、解決金(パッケージ)を支払う法律上の義務はありません。しかし、会社都合で辞めてもらう以上、相手の生活不安を取り除くため、あるいは「納得してサインしてもらうため」の実務的な対価として、支払うケースが一般的です。
一般的な相場観(給与の何ヶ月分か)
在職期間や役職による変動
相場はケースバイケースですが、実務上は「給与の3ヶ月分〜6ヶ月分」程度でまとまることが多いです。
- 勤続年数が短い場合:1〜3ヶ月分
- 勤続年数が長い、または管理職の場合:6ヶ月分〜1年分
相手がどれだけ抵抗しているかによっても変動します。
解決金を支払ってでも早期退職を促すべき経済合理的理由
「なぜ問題社員にお金を払わなければならないのか」と不満をもつ経営者様もいらっしゃいます。
しかし、その社員をあと1年雇用し続けた場合の給与・社会保険料・賞与、そして周りへの悪影響をコスト換算してみてください。数ヶ月分の解決金で即時に雇用関係を終了させるほうが、トータルコストが安く済むことが多々あります。これは「損して得取れ」の経営判断です。
また、解決金の提示により合意退職に至る場合、対象となる従業員が退職に向けた意思を任意に形成したといえ、退職の強要と評価されにくくなるというメリットもあります。
9. 退職勧奨を弁護士に相談・依頼すべきタイミングとメリット
退職勧奨は自社で行うことも可能ですが、リスク管理の観点からは専門家の関与が推奨されます。
自社だけで対応することのリスクと限界
感情的な対立による泥沼化と録音リスク
当事者同士(上司と部下)では感情的になりやすく、「売り言葉に買い言葉」でパワハラ発言をしてしまうリスクがあります。相手が隠し録音をしていれば、それが致命的な証拠となります。
合意書不備による退職後の未払い残業代請求リスク
ネット上の雛形を使った合意書では、「清算条項」が不十分だったり、個別の事情に対応できていなかったりします。その結果、退職後に多額の残業代等を請求され、支払わざるを得なくなるケースもあり得ます。
企業法務に強い弁護士に依頼する3つのメリット
適法なシナリオ構築と面談スクリプトの作成支援
弁護士は、個別の事案に合わせて「どのような理由で」「どのような順序で」話をすべきか、詳細なシナリオを作成します。これにより、担当者は自信を持って面談に臨めます。
代理人としての交渉や面談同席による精神的負担の軽減
こじれてしまった場合や、相手がユニオン(労働組合)に加入した場合など、弁護士が代理人として交渉窓口になることで、経営者様・担当者様の精神的ストレスを大幅に軽減できます。
万全な退職合意書の作成と事後トラブルの防止
将来のリスクを完全封鎖するための、法的効力のある合意書を作成します。これにより、後顧の憂いなく経営に専念できます。
当事務所(顧問先750社超)の強みとサポート体制
豊富な解決実績に基づく「最短ルート」の提示
当事務所は、企業法務に特化し、現在 750 社以上の顧問先企業様をサポートしております。問題社員対応の経験値が圧倒的に豊富であり、「このケースなら、この条件で、こう進めれば解決できる」という相場感と最短ルートを熟知しています。
オンライン対応・初回無料相談による迅速な初期対応
全国どこからでも、オンライン(Zoom等)でのご相談が可能です。また、企業様からの初回相談は無料でお受けしています。「まだ退職勧奨するか決めていないけれど、リスクを知りたい」という段階でも構いません。問題が大きくなる前に、まずはお気軽にご相談ください。
10. 退職勧奨に関するよくあるご質問
試用期間中の社員に対しても退職勧奨はできますか?
はい、可能です。試用期間中であっても、本採用拒否(解雇)は法的なハードルが高いため、退職勧奨によって合意退職を目指すのが安全です。「適性が合わなかった」という理由で、早期に見切りをつける際によく利用されます。
休職中(うつ病など)の従業員に退職勧奨をしても問題ありませんか?
非常に慎重な対応が必要です。メンタルヘルス不調の原因が業務にある場合、退職勧奨自体が症状を悪化させたとみなされ、損害賠償リスクが生じます。主治医の判断を仰ぎつつ、まずは治療に専念させることが優先です。休職期間満了による自然退職を待つのが一般的な選択肢となります。
退職勧奨に応じた場合、失業保険は「会社都合」になりますか?
はい、原則として「会社都合(特定受給資格者)」となります。ただし、離職票を作成する際に、会社側が誤って「自己都合」としてしまうトラブルが多いため、ハローワークへの手続き時に「事業主からの働きかけによる退職」であることを明確にする必要があります。
パートやアルバイト、契約社員でも退職勧奨は可能ですか?
はい、雇用形態に関わらず可能です。契約社員(有期雇用)の場合、契約期間中の解雇は「やむを得ない事由」が必要で、正社員以上に解雇が難しいため、退職勧奨による合意解除がより重要になります。
退職勧奨を行う際、通知書や理由書を渡す義務はありますか?
法的な義務はありません。口頭のみでも有効です。むしろ、書面で「退職勧奨通知書」などを渡すと、解雇予告と誤解されたり、記載内容の揚げ足をとられたりするリスクがあるため、慎重に行うべきです。
退職勧奨で合意退職した場合、特定受給資格者になりますか?
はい、なります。退職勧奨による退職は、雇用保険法上の「特定受給資格者」に該当し、失業給付の所定給付日数が手厚くなるなどの保護を受けられます。これは従業員への説得材料として使えます。
11. まとめ:法的リスクを回避し、円満な組織運営を目指すために
退職勧奨は、企業のリスクマネジメントにおいて非常に有効な手段です。
一方的な解雇は高いリスクを伴いますが、正しい手順と誠実な態度で行う退職勧奨は、会社と従業員の双方にとって「次の一歩」を踏み出すための建設的な解決策となり得ます。
重要なのは、「感情ではなく論理で進めること」、そして「法的な防衛ラインを理解しておくこと」です。
もし今、対応に迷われているようでしたら、自己判断で進めてこじらせてしまう前に、専門家の知見を頼ってください。早期の相談こそが、トラブルゼロでの解決への近道です。貴社の健全な発展と、円滑な労務管理を心より応援しております。
監修者
弁護士法人グレイス企業法務部
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