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休職に潜む落とし穴について弁護士が解説します

投稿日:2019/10/27
更新日:2022/07/12
休職に潜む落とし穴について弁護士が解説します

休職制度は、比較的多くの会社が有している制度かと思います。ただ、同時に休職制度をこれまであまり使ったことがない、または、休職制度が却ってトラブルの種になってしまった、なんてことも実際にあります。特に近年は、心の病を発症する従業員の増加に伴い、休職制度に対する理解と適切な運用がこれまで以上に重要になってきております。

この記事では、休職制度についての一般的な解説と、私傷病に関する休職制度を取り上げたうえで、これに関する落とし穴とでもいうべき問題点を取り上げますので、改めて休職制度を見直す機会としていただければと思います。

1. 休職の概要

休職の概要

休職とは、一般的には、労働者の側に労働を提供することが不適切または不能な事由が発生した場合に、会社と労働者が労働契約を維持しつつ、その労働者の労務の提供を免除または拒否する措置をいいます。

もっとも、休職の具体的な内容については、法律上規定がありません(ただし、労働法上の強行法規に抵触してはいけません)。そのため、原則として、会社の就業規則でその内容、休職措置の要件及び効果を定めることになります。労働協約、労働者の合意によってなされることもあります。したがいまして、休職制度の目的や種類、運用については、個々の制度をみていく必要があります。

また、意外に知られていませんが、休職制度は、設置するかどうかはあくまで任意です。ただ、休職制度がない場合、病気等になった場合に直ちに解雇するといった現実に適さない方法を取らざるを得ないケースが生じかねないこと、及び優秀な人材の流失に繋がる可能性もありえることなど、休職がないことのデメリットもあります。したがいまして、休職制度の採用については、メリット・デメリットの比較検討が必要かと思います。休職制度のメリットでメリットははた別のコラムで説明したいと思います。

さらに、休職にもいくつか種類があります。まず、労働者側の事由により労働提供が困難となった場合と労働者側の事由以外の事由が理由で労働の提供が困難となった場合です。前者の例は、これから説明する私傷病休職です。この記事では取り上げませんが、私傷病休職制度以外の、比較的利用される休職制度としましては、起訴休職(従業員が刑事事件に関し起訴された場合の休職)、他社への出向休職、留学休職などが挙げられます。後者の例としては、出向休職等があります。

なお、休職と似たものとして自宅待機、休業又は出勤停止もあります。これらは労働者が労務を提供しないという意味では、休職と同一ですが給与の有無や使用する場面が異なります。そのため、実態にあった制度を使用することが重要となります。
以下では、一般的に利用されることの多い、私傷病休職について説明します。

2. 私傷病休職制度について

(1)休職制度について、特に問題となるのが、私傷病休職です。私傷病休職は、私傷病により労働者が一定期間欠勤した場合に、当該労働者を一定期間出勤停止とするものです。ここ数年問題が多く見受けられるメンタルヘルスに問題が生じた労働者に対してもこの休職制度が使用されます。
どの程度の期間欠勤した場合に休職とするか、休職の期間については就業規則等で具体的に定めることになります。例えば、「欠勤が〇ヶ月以上継続した場合」ということを休職制度を利用するための要件とすることもあります。どの程度欠勤が継続した場合に休職をできるようにするかには注意が必要です。この期間をあまりにも長く設定しまうと休職制度を使用することがおよそできなくなってしまうことも考えられます。そのため、この期間の設定などは、注意しなければなりません。
加えて、休職期間が理由に比して長期にわたる場合もあり、結果として、会社が労働者の処遇を長期間決定できないという事態も生じます。そのため、ある程度柔軟に期間を設定できるような制度設計をすることが望ましといえます。

(2)つぎに、私傷病休職の対象は、私傷病とされるとおり、業務外の負傷等です。業務「上」の傷害による休業とは、全く別の制度です。私傷病休職に際し、特に問題となるのは、以下の点が挙げられます。

2-1. 「治癒」の判断

「治癒」の判断

休職制度を利用した場合、必然的に復帰に可否が問題となります。そして、休職からの復帰が可能かどうかを判断するための基準として、休職事由が消滅したのか、すなわち「治癒」したかどうかの判断が、極めて重要になってきます。

裁判例では、復職するための事由の消滅としては従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したときをいうと説示されています。すなわち、「治癒」といえるかは、休職期間が満了するまでの間に、休職時点と同様の業務ができる状態となっているかが重要となります。そして、職務を行えるかは休職までに従事していた業務が基準となります。ただし、正社員など職種を限定してない労働者については、他に行える職務の有無も休職期間満了による当然退職又は解雇の有効性に影響しますので、注意が必要です。

また、特に、心の病により休職した場合、復職が可能かどうかは、判断が非常に難しく、実際上は、医師による判断が必要になろうかと思います。ただ、心の病に関する医師の診断は、患者である従業員の言い分のみを採用し、安易な診断が行われることも、十分予想されます。

そのような場合に備え、診断書を基準とするとともに、会社側の指定する医師による診断を求めることを可能とするなどの規定を盛り込む対策が考えられます。あなたの会社の休職制度において、十分な制度設計がなされているのか、今一度休職制度を見直していただければと思います。

2-2. 「期間満了時」の規定

「期間満了時」の規定

休職期間満了時に、残念ながら「治癒」されなかった場合、従業員は、退職することになりますが、就業規則の規定が、当然退職の扱いとされているか、解雇の扱いとされているかによって、当該従業員の取扱いが異なります。

当然退職とされている場合には、特段の意思表示を必要とせず、退職となりますが、解雇と規定されている場合には、解雇の意思表示が必要になりますし、解雇予告の規定が適用されます。

最近では、休職期間が満了した場合、自然退職とする規定が比較的多いように思いますが、仮に、期間満了時、解雇する旨の規定が置かれている場合には、就業規則等の改正等も検討すべきかと思います。

また、この当然退職及び解雇の有効性は治癒が認められないという判断が適切であることが前提であるため、前述のとおり、治癒の当否は慎重な判断が必要となります。

2-3. 休職制度の運用

休職制度の運用

休職制度の運用についても、多くの問題があります。

まず、労務提供が不可能となった傷病が会社の業務に起因するものを見極める必要があります。これは、業務に起因した傷病と判断されれば労働災害として労災申請をすることになりますし、解雇制限の問題などが生じるためです。そのため、まずは傷病の原因の確認については怠らないようにしなければなりません。会社として判断がつきかねる、労働者と見解が別れているということもあるかと思います。その場合は、労災を申請し、労基署の判断に従うということも選択肢といえます。
次に、業務上に起因しない傷病であった場合には、休職制度を利用する要件を満たすかの判断をする必要があります。通常、欠勤がどの程度の期間継続しているかを要件としていることが多いと思いますので、当該期間が経過したかを検討することになります。その上で、休職制度の要件を満たす場合には、会社は当該労働者に対して休職命令を出すことになります。

また、休職制度は、あくまで療養を目的とするものですので労働者も私傷病の治療に専念することになります。そして、会社と労働者は、治療の経過についても定期的に連絡を取れるようにしておくことが大切です。

そして、復帰について問題となります。復帰の可否の判断は前述のとおりです。もっとも、ここでどのような資料をもとに復帰を判断するかというのも大きな問題です。通常、当該労働者の主治医の診断書などが考えられます。しかし、これだけで判断するのは不十分であり、会社としては、他の医師に見解を求めるか、少なくとも、当該労働者の担当医へ質問・照会を検討すべきです。その上で、復帰の可否を判断することが必要といえます。裁判例においても会社がどこまでの調査をしたかをその後の退職又は解雇の有効性の判断で考慮しています。

加えて、復職の可否を判断するためのお試し出勤をさせるなども検討の余地があります。実際に、業務をしてもらい今後本当に従前のように職務を遂行できるのかを判断しても良いでしょう。

2-4. その他

その他

心の病の中には、調子のよい時期があり、不定期に出社するケースや、休日であれば問題なく生活できることもあるとされる、いわゆる「新型うつ病」など、身体的傷害を想定した休職制度では対応できないことがあります。

これらは、休職事由や、傷病の定義を修正することで、現実に即した休職制度の運用が可能なケースがあります。不定期に出社するがゆえに、継続的な欠勤を想定した休職規定では対応できないなどの、不都合な事態を未然に防ぐためにも、休職制度の改正が必要なケースがあろうかと思います。例えば、一度休職から復帰したとしても同一理由で欠勤とした場合には、休職を命じることができ、かつ、休職期間を合算できるよう就業規則等に定めることが考えられます。

3. 最後に

休職の規定は、制度設計の自由度が比較的大きい反面、就業規則等の規定の仕方、規定の有無によって、大きな差が生じかねない制度でもあります。
また、休職命令を前提とした制度設計がなされているにもかかわらず、休職命令を出さなかった結果、いつから休職が始まったのかがわからず、いつ休職期間が満了するのかもわからなくなってしまった、あるいは休職事由の適用を誤り、対象とならない者を休職としてしまった、など、規定を十分に理解できていないがゆえに、却ってトラブルになってしまったケースもあります。休職制度は、前述のとおり、労働者を解雇するための猶予制度という側面を有しており、労働者の処遇を決定するにあたり重要な意味を持ちます。適宜弁護士等に相談にいただき、休職制度の理解を深め、運用されるべきと考えます。

休職制度は、上手に運用できれば、会社にとって大きなメリットを生む制度です。就業規則等について事前に相談いただくとともに、実際の運用についても、適宜弁護士にご相談いただくことで、適切な休職制度の実用が可能になろうかと思います。一度、ご相談いただければと思います。

監修者

弁護士法人グレイス企業法務部

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