企業法務コラム
正社員以外の雇用契約書について雇用形態別に解説

1. 雇用契約書に関する基礎知識

(1) 雇用契約書の必要性
「弁護士からみる雇用契約書の必要性について解説」をご覧ください。
(2) 雇用形態別で作成することの意味
雇用契約書を作成している会社であっても、従業員の雇用形態に分けて、雇用契約書を作成している会社は少ないと思われます。
雇用形態の違いは、雇用契約書の基本的な構成に関わります。
例えば、正社員と契約社員では、法律上で大きな違いがあります。
そのため、このような違いを雇用契約書でも正確に反映する必要があります。
契約社員との雇用契約書について、正社員との雇用契約書と同じ書式を使用することは、実態に即していないばかりか、正社員として処遇すると解釈されるリスクもあります。
2. 正社員のケース
正社員は、法的には「無期雇用社員」となります。「期間の定めがない雇用」と呼ばれることもありますが、意味は同じです。
無期雇用社員として雇用されると、従業員が自己都合で退職しない限り、原則として、定年まで雇用が継続されることになります。
雇用が保証されていることの反面として、会社による業務命令としての転勤・出向・残業は、原則として拒否できないことになります。
正社員の雇用契約書が、会社における雇用契約書のベースとなります。
そのため、正社員の雇用契約書を整備しておくことは、特に重要になります。
正社員の雇用契約書で規定すべき事項は、「弁護士からみる雇用契約書の必要性について解説」をご覧ください。
3. 契約社員・パート・アルバイトのケース
(1) 契約社員・パート・アルバイトの違い
契約社員は、法的には「有期雇用社員」となります。「期間の定めがある雇用」と呼ばれることもありますが、意味は同じです。
パート・アルバイトと呼ばれることもありますが、これらに厳密な定義はなく、いずれも有期雇用社員の範疇に属します。
一般的には、有期雇用社員のうち、時給制である方がパート・アルバイトと呼ばれることが多いと思われます。
(2) 雇用契約締結時の注意点
① 雇止めは容易にできない
期間の定めがある雇用ですので、一定期間(例:1年)ごとに雇用が更新されていく方式になります。
他方で、長期間にわたり会社に勤務していた有期雇用社員が、期間満了をもって突然に雇用契約の終了を言い渡されると、安定した雇用の確保に支障をきたします。
そのため、有期雇用社員であっても、雇用期間が長くなればなるほど、このような雇止めには制限があります。
対象になる従業員が、正社員と同じような勤務状態になっているようなケースでは、雇用契約書の記載にかかわらず、実態が重視されますので、雇い止めが認められにくくなります。
② 正社員になるルート
有期雇用社員であっても、正社員になるルートが法的に確保されています。
具体的には、有期雇用が通算で5年超になった場合には、その従業員から希望があれば、無期雇用に切り替わるルートがあります。
③ 更新の有無を明示する
契約社員との雇用契約書では、雇用期間を明示する必要がある(例:1年)ほか、「更新の有無/条件」を具体的に明示する必要があります。
「自動的に更新する」という記載がなされているケースや、更新の有無を何も示していないケースもありますが、そのような記載は、会社にとって不測のリスク要因にしかなり得ません。
④ 更新の基準を具体的に示す
会社として、更新の条件は、できるだけ具体的な基準を示すことが望ましいです。更新の基準が漠然としている例も見受けられますが、そのような条項では、期間満了による雇止めの合理性を争われたときに、会社側に不利に作用します。
・ 契約期間満了時の業務量
・ 労働者の勤務成績/態度
・ 労働者の能力
・ 会社の経営状況により判断する
このような基準を定めたとしても、契約更新時に厳格な運用・判断を行っていない場合には、やはり問題が生じます。そのため、雇用契約書の記載だけではなく、会社の運用実態も重要になってきます。
⑤ 勤務場所・職種をどのように記載するか
契約社員との雇用契約書で注意すべきもう一つのポイントとして、勤務場所・職種があります。契約社員は、正社員と異なり、採用の時点で勤務場所・職種が限定されていることがあります。
他方で、雇用契約書でこのような限定を付してしまいますと、事後的に転勤・配置転換等を行いにくくなるというデメリットもあります。
そのため、契約社員といっても、雇用契約書での記載は、広く記載しておくほうが会社にとって有利です。
4. 定年後再雇用のケース
(1) 雇用契約書の必要性
定年後再雇用者は、有期雇用社員となるケースがよく見られます。
これは、60歳の定年に達した後に、65歳までの間を1年更新の有期雇用社員に切り替える運用によるものです。
(2) 雇用契約締結時の注意点
① 定年前の条件から何を変更すべきか
定年後再雇用者との雇用契約書では、定年前の雇用条件からどの程度の変更を行うかがポイントになります。
職責・業務量を軽減する代わりに、それに見合った給与の減額をすることが多くみられますが、職責・業務量が変わらないにもかかわらず、給与のみが減額されているケースを見かけることがあります。
このような取り扱いは、雇用契約書の記載にかかわらず、実態が重視されますので、認められないことが多いです。
② 「無期雇用ルート」が適用されないために
定年後再雇用者であっても、前記の「無期雇用に切り替わるルート」は、法律上で適用されます。
そのため、定年後再雇用者が65歳を超えても勤務しているようなケースでは、この点が問題になりえます。
人手不足の会社では、65歳を超えても定年後再雇用者の雇用継続が行われていることがよくあります。それ自体は、就業意欲のある方の雇用維持という点で望ましいことではありますが、会社としては、「無期雇用に転換してしまうリスク」を認識しておく必要があります。
回避策としては、所轄の労働局に申請を行い、認定を受ける方法があります。これにより、65歳以降に雇用が継続したとしても、無期雇用に転換してしまうことはなくなります。
そのような認定を受けることが難しいのであれば、「第2定年(65歳以降も勤務する場合を想定した定年)」を設定しておく必要があります。この点も、定年後再雇用者との雇用契約書に記載する必要があります。
5. 雇用契約に関するご相談は弁護士法人グレイスへ
雇用契約は、従業員の属性等により個別性があり、様々な内容を規定することができることがお分かりいただけたと思います。これは雇用契約の柔軟性によるものですが、他方で、就業規則と並んで労働条件のルールとなりますので、実態に即した正確な内容で作成する必要があります。
雇用契約に関するご相談は、弁護士法人グレイスにご連絡ください。
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