企業法務コラム
「法定養育費」の導入について
更新日:2024/03/22
現在、法務省では、父母が養育費の分担の定めをすることなく離婚した場合に、一定の要件のもとで、離婚から一定の期間、法令が定める額の養育費の支払義務を非監護親(子供の面倒を見ていない側の親)に課す制度の導入が検討されています。
現行法上、父母の離婚の際には、養育費を含めた子の監護について必要な事項は父母の協議で定めるものとし、協議が調わないときや協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定めるものとされています。
本来は、父母の離婚の際に協議で必要な事項が適切に取り決められ、それが円滑に実現されることが、子の利益のためには望ましいことです。しかし、現実にはこれがなかなか困難で、養育費の定めがされないまま離婚に至るケースは多いです。
こうした状況への方策として、例えば、養育費を定めないと離婚できないとすることも制度論的には考えられます。しかし、離婚時の養育費の定めを必須とすると、父母が離婚に合意をしていたとしても、養育費に争いがあれば離婚届が受理されず、父母の一方が早期の離婚を望む結果として、子の利益の観点からの熟慮を欠いたまま安易に他方の求めに応じて適切な水準を著しく下回る額を定め、結果的に子の利益に反する事態が生じるとの懸念があります。
また、婚姻中のDVなどの事情によりそもそも父母に協議を求めること自体が現実的に期待できないケースもあります。
以上のような指摘を踏まえ、「法定養育費」の要件や期間・額といった内容の検討に当たっては、法定養育費の位置付け(父母の協議などにより養育費の額を定めることができない場合に対応するための補充的なもので、その定めができる状態までの間の暫定的な養育費の額を定める応急の措置)を踏まえた上で、制度の利用のしやすさや払う側の負担への配慮の観点に留意する必要があるとされています。
また、DV等の事情によりその協議をすることや家庭裁判所の手続の申立てをすることすら困難であるケースもあることに配慮すべきという意見もあります。
この「法定養育費」の問題については、共同親権の問題とは異なり、こうした検討がなされていること自体、国民一般にはあまり知られていません。
家事事件を扱う弁護士としては、今後、広く国民一般の意見を集めた上で、適切な制度を定めて欲しいと願うところです。
【著者情報】
播摩 洋平弁護士
企業法務部 部長 福岡県弁護士会(弁護士登録番号:33334)
九州大学大学院法学研究科修士課程 修了
米国Vanderbilt Universityロースクール(LLMコース) 卒業
三菱商事株式会社、シティユーワ法律事務所を経て、現在弁護士法人グレイスにて勤務
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